リアホナ2005年8月号この町に末日聖徒9 料理教室を通して福音と出会う場を

この町に末日聖徒9

料理教室を通して福音と出会う場を

大阪ステーク阿倍野ワード 勢志真理子姉妹

勢志真理子姉妹の祝福師の祝福文の中には「たくさんの人を神様のもとへ導く」と書かれてある。その祝福の言葉に従うように,宣教師として伝道へも赴いた。しかし,その務めが完了したという気持ちにはならなかった。「何かしなくてはならない。ほかに何ができるだろうか。そんな気持ちはどこかにありました」と勢志姉妹は話す。しかし,自分にできる具体的な方法はなかなか見つからなかった。

あるとき新しく赴任した伝道部長の訪問を受けた。「突然わたしの家を訪問してくださったんです。実を言うとその伝道部長さんの名前もよく覚えていません。」と話すように,決してそれはドラマチックな出来事ではなかった。しかし,「何かをやらなくては」という気持ちがさらに強まったことだけははっきりと記憶している。その気持ちを拭い去ることはできなかった。

その気持ちを現実に変えてくれたのは小さなきっかけだった。「二人の姉妹宣教師にアメリカ料理の教室を開かせてほしいと打診されました。わたしは以前お会いしたとても感じの良い方をその料理教室に招待しました。結局,その方は改宗し,わたしにとっても貴重な経験となりました。そのうち,二人の宣教師は帰国することになり,姉妹宣教師に代わって料理教室を引き継ぐ形になりました。」

姉妹宣教師の活動を引き継いだ勢志姉妹は,扶助協会で学んだ料理を教えた。テレビで学ぶこともあれば,講習会にも参加して料理の幅を広げていった。手さぐりで始めた料理教師も参加する人に好評で,口コミで広がっていった。最初のアメリカ料理の教室を開いたのが1985年の暮れ。「いつのまにか20年近くも続いているんですね。もう,そんなになりますか」と淡々と答える。現在は月に2回,火曜日と土曜日に自宅で開催している。

「次はこれを作ってください。やり方は,こうやって。できるでしょ?」教え方もまったく気負っていない。不慣れな手つきの参加者がいると,しばらく観察するように見守ってから「こうやるんですよ」と助け舟を出す。一緒に参加する教会員もいるので,料理教室というより,食事会の準備をしているように手際よく,次から次へと作業が進む。出席している人たちも料理が好きな人ばかりなので,だれが教えているのか,だれが習っているのかあまり区別がつかない。

昨年の6月から参加しているという御手洗節子姉妹は勢志姉妹の料理教室の「運営方法」について次のように話す。「何を作るかメニューは勢志姉妹が決めます。毎回計画するのは大変だと思いますが,料理のことよりも,まずは伝道のことが頭にあるようです。料理を教えるというよりも,どのようにして求道者の人たちに快く福音を伝えることができるかをいつも考えているんです。」

料理教室を通じて改宗した人たちのことを尋ねると「料理を習いに来て改宗した人はそんなに多くはありません。6人ぐらいでしょうか。しかし,宣教師が連れて来た求道者で,料理教室を通じて改宗の助けをした人はたくさんいますよ」と話す。

料理教室は様々な機会を参加者に与えてくれる。現在,夫婦宣教師として働く岡本長老姉妹にとっても,人々と知り合うすばらしい場所の一つとなっている。「もう1年ぐらい参加していますね」と岡本好子姉妹は話す。ケーキやクッキー作りが上手な岡本姉妹は勢志姉妹のアシスタント的な役割も果たしている。手伝いをしながらも忙しく動き回る岡本姉妹。初めて参加した人にも,いつも参加している人にも心配りを忘れることなく常に笑顔で対応している姿は,会場の雰囲気を和やかにしてくれる。

「わたしは食べるころにやって来ます」と岡本亮長老は笑うが,料理教室後の食事会で特技の器楽演奏を披露したのがきっかけとなり,今ではホームコンサートも開催している。料理教室は料理を習う人だけが参加しているのではない。料理に参加しない子供たちや,長老たちが招待した求道者もいる。岡本長老は子供たちの相手をしたり,出席した人たちの話に耳を傾けながら穏やかに会話をする。

料理教室には,様々な人が招かれ,その集会自体がまるで一つの料理を作り上げるように,それぞれの材料(人々)の個性が引き出され,楽しい空間ができあがっていく。

「はい,次はベトナム春巻きを作りますよ」

「手は洗いましたか」

「軽くぬらして,どんどん巻いてください」

「上手にできていますね」

家庭科の料理実習で生徒に語りかけるように指導する姿は,とても滑らかで手際がいい。だれもが積極的に学ぼうとする姿勢が,短い時間ながらも整然とした手順につながっているように感じさせる。もちろん,誉めることも忘れてはいない。

初めて参加したという二人の高校生は,勢志姉妹の近所に住んでいる。「母親がこの料理教室に来ていたのがきっかけで来るようになりました。普段はあまり料理をしませんが,とても楽しい雰囲気です」と河本明日香さんは感想を述べる。「わたしはお菓子とかは作ることはあります。中学のときからの同級生なので一緒に来てみました」と井上可奈さん。参加した姉妹たちも二人にいろいろな経験を話したり,世間話に花を咲かせるが,手を止めることなく二人の高校生も一生懸命料理に集中する。

「以前は,料理を教えた後に宣教師にレッスンをしてもらっていました。求道者の学んでいる度合いに応じてレッスンをしていました。しかし,参加者も多様になりましたし,参加した人たちそれぞれにすばらしい何かを感じてもらえればと思って,福音的なメッセージを分かち合ってもらうようにしました。神様の教えを押しつける必要はありませんので。」勢志姉妹が料理を教えている間,夫の昇兄弟はキッチンの隅で参加者の進み具合をほほえみながら見守ったり,状況に応じて料理の手伝いをする。彼ら二人もまた夫婦宣教師のような印象を備えている。

「福音を伝えるのにはいろんな方法があります。それぞれが自分に適した方法で何かメッセージを伝えれば,それで良いと思います。大切なのは何かをやろうという気持ちと,何ができるだろうかと考えることです。」

会員伝道という言葉を勢志兄弟姉妹はあまり好まないかもしれない。しかし,料理という最も勢志姉妹が関心ある分野を通じて,夫妻は宣教師を助け,求道者を導いてきた。「たくさんの人を神様のもとへ導く。」勢志姉妹は,そう書かれた祝福文の言葉を以前のように強く意識することはなくなったが,20年の歳月を振り返るとき,その祝福が成就しつつあることに感謝の念を新たにしている。◆