リアホナ 2005年2月号TOPIC 会員と宣教師がともに働くとき,天が動く

TOPIC 会員と宣教師がともに働くとき,天が動く

地域社会の人々,指導者,宣教師,会員たち──

人と人とをつないでいく夫婦宣教師の働き~熊本ステーク/八代支部

昨年12月の第2日曜日。八代市上空は早朝から厚い雲に覆われていた。この地で夫婦宣教師として18か月間奉仕してきた宮下阿佐夫長老・久美子姉妹は普段どおりに身支度を済ませると,八代支部の教会堂へと車を走らせた。

わずか9か月前まで毎週平均30人程度の出席だった八代支部の聖餐会に,この日,数日後に迫った宮下ご夫妻との別れを惜しんで105人の出席者が集っていた。実に普段の3倍以上,集会出席者数の増加を見込んで4か月前の支部大会のときに増やしておいた折り畳み式のいすも足りず,礼拝堂の後部には立ったまま集会に臨む人々の姿も。しかし人数を感じさせない静けさに包まれる中,出席者たちの視線は一斉に説教台へと注がれた。宮下長老は話の順番が回ってくると立ち上がり,礼拝堂を満たしている出席者全員を見渡してから,口を開いた。「これはわたしと家内の働きの実ではありません。これまで働いてこられた支部の皆さん,ステークの皆さんの実です。」

長い間バプテスマも少なく聖餐会出席者数の増加も見えなかった支部に,宮下ご夫妻が着任されたのは2003年6月。

着任後すぐに取り組んだのは会員調査だった。これまでなかなか進まなかった会員記録の調査が約半年間かけて進められ,不在会員,転出会員の情報が一気に整理された。調査のための訪問を受けた人々の多くがご夫妻の穏やかな表情や立ち振る舞いを見て彼らを信頼し,必要な情報を提供してくれた。

今田さんという女性は家族に教会員がいることをまったく知らなかった。しかし,夫婦宣教師の訪れを受けて偶然応対したとき強い印象を受け,彼らから福音のメッセージを聞くことを希望する。

ただ,ご主人の反対もありその後のレッスンはなかなか進まない。そんなあるとき,買い物の途中で旧友と偶然再会た。旧交を温めるうちに,彼女がクリスチャンであり,それまで度々会っていた宮下ご夫妻は彼女の集う教会の夫婦宣教師であることを知る。「これは偶然ではない」と感じた今田さんは,以来レッスンを聞き続け,度々聖餐会にも出席するようになる。やがて3月14日の日曜日,家族のことを考えてバプテスマを受けることを躊躇しながら聖餐会に出席していたときだった。一美支部長の話す,「この世のものよりも神様を求めなさい」というメッセージを耳にして決意を促され,今田詠子姉妹は翌2004年3月15日にバプテスマを受けた。

敷居の低い教会を目指して

「伝道部長から夫婦宣教師を送ってくださるとのお話を頂いてから,どうしたらこの支部の伝道活動を成功させられるかをいつも考えてきました。」それは,働き手が少なく成長の兆しも見えない小さな支部にあって,現状を何とか打開できないものかと考え続けていた一美豊支部長の心に大きな希望の灯をともすことになった。「とにかく教会と地域との敷居を低くするために,いろいろなことをやってみました。」

2004年の年が明けて,年間目標を「教会堂建築用地購入に必要な聖餐会出席者数の確保」と定めた支部長会は,宣教師たちを生かす方法について検討し,様々な企画を打ち出していく。

例えば宮下姉妹の趣味を生かしたトールペイント教室は,地域の方々と教会員とをつなぐ場として2004年の2月に始められた。扶助協会会長も含め6人でスタートしたが,宮下姉妹の気さくな人柄に惹かれた人々は教室に通い続け,さらに5月の八代市報を活用することによって参加者を10人にまで増やした。参加者と宮下姉妹との交流は教室の中だけにとどまらず,教会員も交えての食事会や家庭の夕べを通して親交を深めていった。この教室の参加者の6人はその後,宮下姉妹の誘いに応じて聖餐会にも出席し,中には宣教師からレッスンを受け始めた家族もある。

子供10人の大家族として知られる岸家族(『リアホナ』2004年1月号チャーチ・ニュース,11参照)の家長,岸英治兄弟が2004年の2月に八代支部担当の高等評議員に召されると,支部長会は各四半期に一度は家族とともに支部を訪問してもらい,地域において知名度の高い彼らの出席を目玉に,教会外の方々を積極的に聖餐会へ招待することにした。さらに集会後にも食事会を準備して交流の時間を持たせるなど,会員たちが家族や友人を安息日の集会に誘いやすいよう配慮をする。

9月,八代支部の聖餐会を訪れた岸信子姉妹は「夫婦で築き上げる愛」をテーマに具体的なエピソードを交えながら楽しく話した。出席していた英会話のある生徒さんは,「結婚した後もさらに愛情を深めることができるというお話を聞いて,自分の家でも試してみたいという気持ちになりました」と語る。

このほかにも,8月には支部大会にあわせて,かつて八代で伝道した入江伸光兄弟と,ミルズ伝道部長ご家族によるコンサートも行われ,大会には112人というかつてない出席者数を得ることができた。支部長会の取り組みに,会員たちも次第に手ごたえを感じるようになっていった。

生徒が主体的にかかわる「英会話委員会」

また一美支部長が特に焦点を当てていたのが定期的に開かれている無料英会話クラスだった。八代支部の教会員の多くがこの英会話クラスを通して教会を知り,改宗に導かれている。このことに気づいていた一美支部長は,宮下長老・姉妹にこのクラスの「管理者」として参加するよう依頼した。ご夫妻はクラスで英語を教えるのではなく,参加者たちへ気軽に声をかけ,一緒に来られた子供たちの世話をする。そして,より良いクラス作りを目指し,会員と英会話の生徒さんとで構成する「英会話委員会」を設立した。3月最後の英会話クラスにおいて一美支部長は「教会堂建築用地購入に必要な聖餐会出席者数の確保」という支部の目標について生徒たちにわかりやすく説明し,教会堂が建築されればもっと充実した英会話教室が運営できるでしょうと訴えかけた。すると意外にも生徒たちからは,「以前からお世話になっているので,何かお手伝いできることはないかと思っていました」との好意的な反応が返ってきた。その後,英会話クラスの内外で,夫婦宣教師や若い専任宣教師たちとの信頼関係を築いていった「英会話委員会」の生徒側の方々の助けを得,毎回クラスで行われる「安息日の集会へのお誘い」のメッセージを通して,6月には平均して8人,9月には平均して4人の生徒たちが聖餐会に出席した。

会員と宣教師がともに働くことの力

これらの企画や働きかけを通して,人数で言えば会員と同等かそれ以上の,会員でない方々が聖餐会にしばしば出席されるという,一風変わった状況が出現した。それは既存の教会員の間にも様々な波及効果を及ぼしていくこととなる。田代浩三ステーク会長は八代支部の成長をこう分析する。「会員以外の方々を継続して定期的にお招きすることができ,会員以外の出席者数増加に伴い,会員の出席者数も増加しています。」その核を担ったのは宮下長老・姉妹の働きであるとしたうえで,それが一美支部長のビジョンと相まって効果を発揮したと評する。「会員の家族や友人,英会話の生徒さんたちまでもが支部の発展のために応援してくださる。そんな魅力がこの支部にはあります。……そのような八代支部の鼓動はステーク全体にも影響を与えてくれました」と田代会長は言う。自分が末日聖徒であることを周囲の人に話すのが楽しくなってきた,と語る姉妹もいる。一美支部長の言うところの「敷居の低い教会づくり」を,宣教師と教会員とが一緒になって支えた結果がここにある。

人の輪を「つなぐ」夫婦宣教師

こうして2004年は,3月以降7月を除いて毎月バプテスマ会が行われ,大人11人,子供2人の計13人がバプテスマを受けた。また教会から遠ざかっていた数人の人々が聖餐会に出席し始めるなどの変化が現れ始めた。

冒頭の12月12日,宮下ご夫妻帰還直前の安息日には,それまで宮下ご夫妻が足繁く訪れていた,教会から遠ざかっている会員の方々も別れを惜しんで教会堂に足を運んでくれた。再び教会を訪れることはないと思っていた,というある姉妹はこう語る。「(返事を書かなくても,宮下ご夫妻は)あきらめずにずっと手紙を出し続けてくださいました。こんなことは今まで一度もなかった。ご夫婦の伝道期間がもう終わると聞いて,今日は教会に来てみました。来てよかったです。」

一美支部長は,一連の成長をもたらす核となった宮下ご夫妻の働きの意味を,『つなぐ』という言葉で象徴的に表現する。

それは,原則として転任せず,任期の間中,地元に密着して働き続けることのできる夫婦宣教師ならではの役割だったのである。◆

宮下ご夫妻の働き(一美支部長のレポートより)

1. 宣教師と英会話の仲間をつなぐ(受付歓迎や案内)

2. 教会から遠ざかっている会員と教会をつなぐ(訪問・ポスター依頼等・招待)

3. 地域の方と教会をつなぐ(トールペイント,英会話ポスター,広報誌への紹介)

4. 会員の家族・知人と教会とをつなぐ(八代出身会員の家族に聖餐会へ出席依頼)

5. 会員同士をつなぐ(帰還宣教師との連携,愛と関心)

6. 問題を抱えた会員と支部長をつなぐ(問題の報告,面接の設定)

7. 神権組織・補助組織をつなぐ(ホームティーチング・家庭訪問,活動,訓練)

※依頼し育てつなぐ。愛と関心を示し寄り添い導くなぐ