末日聖徒イエスキリスト教会(モルモン教)リアホナ2016年1月号 鬼怒川決壊の水害被災地でヘルピングハンズ活動

鬼怒川決壊の水害被災地でヘルピングハンズ活動

常総市の被災地区を東京ステーク,松戸ステークのボランティアが支援

2015年9月9日から10日にかけて,台風18号の通過にともない,北関東を中心に記録的な大雨が降った。この影響で,茨城県では西部を中心に河川の堤防決壊や越水※1が起きた。特に国管理の1級河川・鬼怒川で起きた堤防の決壊は,茨城県常総市に大きな被害をもたらした。

この災害により,多くの人々が命を失い,行方不明となった他,家屋の浸水による避難を余儀なくされた世帯も多数に上った。この被害に際し,教会では地元の複数のステークが率先してボランティアによるヘルピングハンズ救助活動を展開し,被災地の多くの人々を支援した。その中,東京ステーク・松戸ステークの支援の様子をここに紹介する。

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鬼怒川が決壊し水没した常総市 写真:朝日新聞社

東京ステーク


鬼怒川の堤防が決壊したと報じられた翌日の9 月11 日。  東京ステークの横山喜一会長は,ステークの独身会員によって水害被災地でのモルモン・ヘルピングハンズの活動を行えないか検討を始めた。  ステーク会長会と広報部で情報を共有し,12日(土)には広報
部のスタッフが現地を訪問した。  主要な道路は交通渋滞や車両規制によって通行が制限されていたため,住宅地の生活道路を通行しながら被災地へ向かった。  到着した被災地には自衛隊や消防の車両が並び,ボランティアが活動できるような状況ではなかった。  ま
た,ボランティアセンターも混乱しており,情報も錯綜している中,モルモン・ヘルピングハンズとしてボランティアを派遣するのは困難だった。





そのため,被災地の前線で活動を行っていた地元消防団とボランティアの活動場所や時期,バスの駐車場所等についての調整を行う
ことが効果的だと判断した。  消防団から現場の情報を収集して,排水作業が終盤にさしかかる9月19 日(土)に最初のボランティア
のグループを派遣することを消防団と確認し合った。





視察が行われた12日にはバスの手配も完了し,中野ワードYSA グループを中心に参加者が募られた。当日はステーク内の独身会員や宣教師も参加し,50人で現地へ向かった。


作業は午前8 時30 分から開始された。6人から8人のグループに分かれ,排水作業が終わった地域を中心に,おもに泥出しや清掃作業,廃棄物の搬出作業が行われた。被災地域の家を1 軒ずつ訪問し,必要に応じた支援活動が行われたが,消防団から各戸への連絡も実施されたため,モルモン・ヘルピングハンズの黄色いシャツを着用した教会員は,地元の被災者から気軽に声をかけられ,絶えず仕事の依頼を受けることとなった。


被災地域では,ボランティアセンターとの調整をつけられない家屋も多く,消防団が地元に密着した支援を行っているところも多々あった。そのため,人道支援活動を担当する福祉部と相談し,初期の混乱した状況の中では,ボランティアセンターからの要請を受けて活動するグループと,直接,現地の要求に対応できるグループへ分けて対応するのが適切だと判断された。



突然発生した災害に対して,急に奉仕活動や人道支援活動を実施するのは難しい。 また,被災地での状況は刻一刻と変化するので,情報を収集したとしても,判断を下すタイミングが遅れれば的確なサポートの機会を逸してしまう場合もある。 その意味では,今回,モルモン・ヘルピングハンズを実施したという点だけではなく,迅速に関係各所が連携し,ステーク会長によって速やかなリーダーシップが発揮された活動が行われたということが評価に値するのではないだろうか。


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松戸ステーク



2015 年9 月21日,茨城県常総市を区域に含む松戸ステークの会員を中心としたモルモン・ヘルピングハンズ活動が行われた。


今回の水害で特に大きな被害が集中して発生した茨城県常総市が区域に属するつくばワードでは,9 月10日午前8 時過ぎに越水を確認し,午前中に多くの会員のアパートが床上浸水していることが分かった。つくばワードの落合 淳 ビショップは,ワードの会員とともに状況の把握に努めた。災害発生当初は電話回線もつながりにくい状態で,確認作業にはとても時間を要したという。 そのような中,素早い対応ができたのは,各ワードのビショップの対応が迅速だったからだと落合ビショップは語る。

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松戸ステークでは,当初50人程度の規模で活動を予定していた。 ところが朝7時過ぎの時点で集合場所の人数を確認すると既に100人を超えていた。会員はもちろん,南北に長いステークの区域の中,かなり遠方の宣教師も集まって来てくれた。
集合場所からボランティアセンターまでは徒歩で20分。 途中,鬼が怒って暴れるとたとえられ古くから災害で多くの被害を出した鬼怒川を渡り,被災地域へ移動する。 このときばかりは,誰もが息をのんで川を渡った。




ボランティア作業の範囲は,およそ南北10km,東西3km に及んだ。その中には,決壊した直近の現場もあり,既に多くのボランティアが活動した後ではあったが,まだ生々しい状態を呈した場所もあった。



ボランティアセンターではヘルピングハンズの120人は大団体だったので,急きょボランティアセンター内での調整作業まで手伝う
こととなった。割り当てに時間がかかり,長い人は2 時間近く待たされたものの,それぞれの活動場所が割り振られ,昼食をはさみ
午後3 時頃まで作業を行った。入念な手足の消毒を行い,ボランティアセンターへの報告をすることで作業が完了した。
作業を終えたボランティア参加者は,一人として疲れたとは口にせず,笑顔で振る舞う人々が多かった。しかしながら,その作業の
大変さは,ヘルピングハンズのロゴが見えなくなるほど汚れたベストが物語っていた。






自宅が被災したにもかかわらずヘルピングハンズに参加した外国出身の兄弟に,参加した理由について尋ねると,次のように答えた。「奥さんは今日,家と周りを掃除します。子供たちも一緒だから,わたしの家は大丈夫。200 軒ぐらい1.5 メートルほどの洪水があった。町はごみでいっぱい。日本に9 年います。でも,こんなの見たことない。みんな,全部( 家を) 失くした。だから……。」

また,ある姉妹はこのように述べた。「他人事ではないなぁと思いました。だからこそ,何か手伝わなければと思って参加しました。うれしかったのは,被災した方が『今日から靴を脱いで家に入れる。お風呂にも入れる。』と言って喜んでくれたことです。」


松戸ステーク会長会第一顧問の山本会長は次のように語った。「堤防の決壊現場に近い資材置き場の搬出作業でした。27人で作業をしました。まだ流れ積もった泥の高さは70 センチから80 センチという感じです。自分のできることは何かやりたいという人が多いと思います。このような機会を作ればきっとたくさん来てくれると思います。一度参加すれば,今度は自分たちで行けるようになるでしょう。素早い対応のポイントは,地元のビショップです。」



そして,松戸ステークの金城 寛 会長は,今回のヘルピングハンズ活動全体を振り返って,次のように述べた。


「ビショップの皆さんは率先して助けの手を差し伸べてくださいました。 小池ビショップは災害発生直後に,まさに失われた羊を探すように,避難所に逃れて不自由な思いをしていた会員を捜しに行きました。 初日は交通規制等に阻まれ道を進めませんでしたが,翌日再度出かけ,途中から車を捨てて徒歩で避難所にたどり着き,疲れ切った家族を救い出して自宅に連れ帰り,風呂と安眠できる場所を提供しました。 落合ビショップは防災士の資格を生かしてすぐに行政との信頼関係を築き,時々刻々と変わる状況を把握しつつ教会と行政との間のパイプ役として,教会のボランティア受け入れに大きな役割を果たしてくださいました。 呼びかけると同時に驚くほど多くの会員が奉仕の心で応じ,被災地に駆けつけることができました。 この大変な時期に少しでもお役に立てたとすれば幸いです。 今まで3 回ボランティアが行きました(10 月24 日現在)。 被災地には継続的に支援が必要ですが,必要であれば継続して主の愛を被災地の皆様にお届けに伺います。」◆