リアホナ2015年3月号 地域の人々とともに創りあげる合唱団

地域の人々とともに創りあげる合唱団

教会が地元の文化拠点となる─長野地方部松本支部,LDS 松本クワイア

教会が地元の文化拠点となる─長野地方部松本支部,LDS 松本クワイア

2014年12月20日(土),長野地方部松本支部の教会堂で,LDS松本クワイアのクリスマスコンサートが行われた。2012年4月に結成したLDS松本クワイアは,8か月後にクリスマスコンサートを,以後半年ごとにコンサートを開催してきた。今回は5度目のコンサートになる。毎回内外で活躍している一流の演奏者をゲストに招き,「大切なあなたに心をこめて」というテーマの下に開催している。発足当時25人だったクワイアのメンバーは40人を超えた。うち教会員は3分の1程度だ。小・中学生から70歳代まで,幅広い年代のさまざまな職業の人が,毎週土曜日の夜,2時間の練習に足を運び,コンサートに向けて準備をしてきた。

クリスマスの心を伝えたい

当日は冷たい雨が降りしきる中,200人を超える聴衆が教会を訪れ,バレエスタジオから10人のバレリーナ,バリトン歌手,ソプラノデュオ,ピアニストをゲストに迎えての2時間の演奏を堪能した。クワイアは混声四部合唱でホームソングメドレーのイギリス編とドイツ・オーストリア編,バレエとの共演でクリスマスソング,最後に「クリスマス音楽物語」を演奏した。

「来てくださる方に,クリスマスの心を伝えたいと思いました」と指揮者の古原さよ子姉妹は語る。「クリスマス音楽物語」では,「子供の歌集」や賛美歌に合唱用アレンジを加え,歌とナレーションでクリスマスを表現した。物語が進むにつれ,本当のクリスマスの意味が明らかになっていく。子供向けに書かれた「主はみ子をつかわし」の易しい歌詞が,美しい歌声とともに,聴衆の心の奥底に静かに,率直に語りかける。「救いを人にもたらすため 主は死を受けてよみがえりぬ……」クリスマスの深遠な意味に何かを感じ,聴き入る人々。敬虔さとぬくもりが会場を満たしていく。生誕を祝う歓喜のグローリアがこだまする「み使い空に」。「クリスマスが近づく……」の歌い出しに想像を膨らませ,目を輝かせる子供たち。皆の心が一つになったという手応え。圧巻の「おお 聖き夜」には一段と大きな拍手が送られ,今回も大盛況のうちにコンサートの幕を閉じた。涙を拭う人,感動の余韻に浸りしばし座席にとどまる人たち─「今日のコンサートは,これまでで一番,御霊があふれるものでした。」支部会長で古原姉妹の夫の古原勲会長は,感慨深げに語った。

「ここで合唱をやるべきだと感じました」

古原姉妹は以前,他の合唱団から指揮者に就任するよう打診されたこともあった。しかし,「ここ(教会堂)で合唱をやるべきだと感じました。合唱団に所属するには会費がかかるため,合唱をやりたくてもできない人も多いんです。でも教会でわたしが合唱を指導すれば会費はかからない。合唱をやりたい人をいつでも受け入れ,合唱の魅力を多くの人に味わってもらいたい。教会に足を踏み入れて,心安らぐ空気に浸り,宗教的なこととは関係なく,本当に貴いものは何かを感じて歌っていただければと思いました。」教会の理解と協力を得て,これまでの経験で得た全ての知識や技術を使って奉仕する決心をした。

古原姉妹は,演奏活動を続けながら,長年,音楽教育に携わってきた。中学校で9年間,高校で10年間,小学校で8年間教え,現在は中高一貫校で教鞭を執り,オーケストラ部の指導もしている。多くの教え子を音楽大学に送り出し,また,『命─電池が切れるまで』の作曲者としても全国的に知られ,手がけた合唱曲も数多い。毎年5月に安曇野市で行われる「早春賦音楽祭」の音楽監督を長年務めるなど,地域のためにも貢献してきた。

中学校で教え始めてすぐに,古原姉妹は若人を音楽で導いていくことのすばらしさを知った。「良い音楽は人の心を浄化し,人を良い方向に導くことができるんです。」指導を重ねるごとに強まる確信。音楽の基本を分かりやすく教えることで,自分で音楽を楽しみ,豊かな生活を送ってもらいたい─この思いで音楽教育に携わってきた。それは今も変わらない。

アマチュアの合唱団が半年ごとにコンサートを開催するのは,実は大変なことだという。それでも,「舞台に立つことが大事」とコンサートの継続とレベルアップを目指す。チャレンジをし,出番を作り,ボイストレーニングをし,うまく歌えない人をサポートする。指導は音楽にとどまらない。「もしかしたら教えている時間よりもカウンセリングの時間の方が長いかも……」と古原姉妹は笑う。一人一人を育てる,クワイアを育てる,若い芽を育てる,この3つの目標をもって指導に臨む。

「約3年たってみて,やはりこれでよかったのだ,神様の御心だったのだと思います。」振り返ると,数々の経験を通して恵みに恵みを加えられ,準備させられてきたのだと実感する。企画,指揮,演奏,教育,詩作,作曲……。全てがクワイアでの指導や運営に役立っている。「わたしは音楽の才能などそんなにないんです。器用でもありませんし。ただ,さまざまな機会が与えられて訓練されたので,時間をかけて色々なことができるようになりました。」自身のことをこう語る。決して順風満帆にきたわけではない。父親の会社の倒産など逆境に苦しんだことも,全てが益となって彼女を形作ってきた。

地域の人々に支えられるクワイア

回数を重ねるにつれて,教会員はLDS松本クワイアのコンサートに,喜んで友人や家族を誘うようになった。無料のチケットは会場の収容人数の関係で200枚限定だ。教会に置かれたチラシやチケットは, すぐになくなってしまうという。コンサート当日の車の誘導は,ヘルピングハンズの黄色いベストを着た教会員が担当する。駐車場は松本支部だけでは足りないため,近隣のビルや銀行,また町内会を通して神社に隣接するグラウンドなど,3か所から協力を得ている。「本当に地域の方たちに支えられています。わたしたちだけの力では公演は不可能です。」メンバーは言い尽くせないほどの感謝を,コンサート前後の近隣への挨拶に込める。

この日,会場には教会員が招待した人や近隣の人たち,クワイアのメンバーの家族や友人などが多数来場した。古原姉妹の教え子や,以前勤めていた学校の同僚,関係校の校長,教育委員会の指導主事の姿もあった。

出演者が聴衆をぐるりと囲み,「聖し,この夜」を全員で合唱する。その情景を見てある教会員は,「主を知らない方たちが教会員を囲んで主を賛美する歌を歌ってくれたとき,本当に不思議な思いがしました」と感動の面持ちで幸福をかみしめる。

ソプラノデュオを歌った女性の話に胸を打たれた人も多い。古原姉妹の指導を受けて音楽大学に進み,現在は白馬村の役場で働いているという彼女は,歌の合間のナレーションで語り始めた。「2014年11月22日,白馬村で震度5強の地震があり,家屋が倒壊し,道路が隆起するなどの被害にあいました。でも奇跡的に,亡くなった人はいませんでした。今も復旧に向けて,わたしも自治体職員として忙しく過ごしています。一人の犠牲者も出なかったこと,これは本当に神様に感謝すべきだと思います。神様が白馬村に住んでいる人を救ってくださったのだと心から思いました。」力強い証言に胸を熱くし,思わず口をつぐむ教会員。清らかな心から紡ぎ出される美しいハーモニー。純粋に音楽を愛する人がもたらす力に感じ入った。

クワイアで歌う教会員は,教会員でないメンバーを,「いい方たちばかり。本当に清いんですよ。すごく霊的で『ここに練習に来るたびに癒やされます』と言ってくださいます」と紹介する。教会員であるかどうかは関係ない。練習のたびに,深まっていく温かいきずなと交流がある。気さくに握手を求め,ほほえみ,声を掛けてくれる優しさや徳の高さに,啓発されることもしばしばだ。

団員も定着し,レパートリーも増えてきた。最近ではコンサートに来場した人や関係者の家族を通して,福祉施設などへの出張出演依頼も増えている。これからはボランティアにも出て行くつもりだ。やることも増えたが,協力してくれる人や地域社会への影響力はそれ以上に増えた。自らの意思でまいた種が,クワイアのメンバーや教会員,地域の方々に支えられ,ここかしこで花を咲かせ,実を結んでいる。合唱の力もついてきたと実感する。近い将来,「メサイア」にも挑戦できればと,古原姉妹は期待を膨らませている。◆