リアホナ2015年3月号 クリスマスオープンハウス

クリスマスオープンハウス

一般の方が教会に足を踏み入れる「怖さ」を乗り越える─横浜ステーク山手ワード

一般の方が教会に足を踏み入れる「怖さ」を乗り越える─横浜ステーク山手ワード

横浜ステーク山手ワードは観光地( 1850 年代の横浜開港の際に開かれた山手外国人居留地)の真ん中に位置する。周囲には往時をしのばせる洋館群やカトリック教会,プロテスタントの教会,外人墓地などの観光スポットが連なる。特にクリスマスの季節には,ロマンチックな異国情緒を求めて観光客がひっきりなしに往来する。山手ワードは,色合いの落ち着いたれんが造りの外観を持ち,町並みにしっとりと溶け込む。末日聖徒にとってもここは,1901年に日本へ初めて上陸した宣教師,ヒーバー・J・グラント長老らの一行が最初に住んだ歴史的な土地である。こうした地の利を生かして山手ワードでは,建物が竣工した2002 年当時から毎年定期的にオープンハウスを催してきた。2014年のクリスマスにも3 日間にわたって開催し,前年と同様,約1,700人の来訪者を迎えた。

日本社会の文脈に沿う

山手ワードの嶋田晴彦ビショップは,長年の経験から学んだノウハウをこう語る。「オープンハウスではなく,『教会堂一般公開』と銘打つ,これが大切なんです。」日本社会においてオープンハウスという言葉は,マンションや新築住宅の内覧会を思い起こさせる。オープンハウスと掲げると,その(教会の)建物を売りに出していると誤解される可能性もある。

日本の仏教寺院では古えより「御開帳」という行事がある。何年かに1 度,普段,公開していない秘仏などを期間限定で公開するものだ。そうした文脈が社会に息づいているので,普段公開しない教会堂を期間限定で「一般公開」するという表現は日本人にすっと理解されやすい。

「クリスマス」もまた,(結婚式を除けば)キリスト教文化の中で唯一,日本社会へ自然に溶け込んだ年中行事である。日本社会でキリスト教への抵抗感が最もない時期であり,ましてや山手ワードの位置するのは,聖公会(プロテスタント)やカトリックの古い教会が立ち並ぶ観光ルート,通称「教会通り」である。「観光」という文脈の下であれば日本人は宗教施設に足を踏み入れることをためらわない。「普段,一般の人は教会に入って来るのが怖いんです。無理矢理レッスンされたり改宗させられたりするのではないかと心配なんですね。ですから向こうから依頼されない限り,展示のツアーガイドもしない方がいい。自由に見て回ってもらって,興味深そうに見入っている方があれば,横から一言二言短く解説するくらいで十分です。」

人が,最も人を惹き付ける

山手ワードのオープンハウスは展示パネルも充実しているものの,「一番,人を惹き付けるのは人です」と嶋田ビショップは断言する。まず屋外のシンボルタワーの下で歌う聖歌隊のキャロリングに惹かれて人々が足を止める。軽く促されて教会に足を踏み入れ,来場者は展示を自由に見て回る。山手ワードの会員が持ち寄ったキリスト降誕場面の人形ディスプレーに物珍しげに見入っている人が多い。1 階の部屋を一通り見たら2 階の礼拝堂へと案内される。そこでは,プロの音楽家であるワードの会員が重厚な音色のオルガンを演奏している。その場で,弾いてもらいたい曲をリクエストすることもできる。しばし,礼拝堂でクリスマスの賛美歌の生演奏を聴きながら雰囲気を味わった後,1 階に設けられた談話室で温かいココアとクッキーが振る舞われる。会員たちは来場者とリラックスした雰囲気で言葉を交わしている。

広報目的のオープンハウスなので,その場で来場者の個人情報を得ようとすることはしない。ただ,無記名のアンケート記入だけをお願いする。来場者にプレッシャーを与えることを極力避けて,自由に気軽に教会を見てもらうことを大切にしている。そのような配慮と文脈の下で,数多くの一般の方が教会を訪れることを山手ワードは実証してきた。今年のゴールデンウィークには,先祖を大切にする日本文化の文脈を踏まえて,家族歴史をテーマにしたオープンハウスを計画している。◆