リアホナ2014年2月号 福音のキーワード─【Agency】選択の自由─行動を選ぶ自由

福音のキーワード─【Agency】選択の自由─行動を選ぶ自由

デレック・リン・ウェスマン

Agency(名詞)という英語は,ラテン語のagere(動詞)に由来します。agereはまさに「行う」という意味です。agencyの名詞としての意味は,「力を発揮するその様子」または,「行動している状態」ということなんです。

モーセ書7章32節,ここは神様がエノクに話しているところです。「わたしは彼らを創造した日に,彼らに知識を与えた。またエデンの園で人に選択の自由を与えた。」英語は「gave I unto man his agency」,もちろん「選択の自由を与えた」というのは正確な表現ですけれど,agencyの語源を考えてこれに当てはめると,「またエデンの園で人に行動する能力,力を発揮する能力を与えた」,そういう意味です。

Agencyを持つもの,という意味でagentという言葉があります。スパイ映画でよくエージェントって言いますね。辞書の定義を並べると,「代理人,代理業者,取次人,仲介者,政府の職員,警官,護衛官,スパイ,工作員,諜報員」。化学的な意味も面白いんです,「変化をもたらす主体,手段,媒介,作用因子。ある結果を引き起こす化学物質や病原体」。肝心な点は,語源的にagentやagencyの裏にはとにかく,行動するもの,(作用されるのではなく)作用するもの,という意味が入っていることです。

「選択の自由」は,日本語表現的にはあまり行動のイメージを伴いません。どちらも選んでいいよ,みたいな感じになるでしょう。だからもし「選択の自由」と聖文の中に出てきたときには,それを「自分の行動を選ぶ自由」と置き換えたらいろいろな発見や洞察が得られるかもしれません。

独立と自由と責任

エージェンシーはチョイス(Choice)より深いですね。単純にチョコレートを選ぶかクッキーを選ぶかは,ある意味,子供でもできます。でもagencyはそうじゃなくて,意味の深層に,自分の行動と振る舞いに対して責任が伴う,自分以外に責任を持つ人がいない,という自己責任のニュアンスが含まれています。

もう一ついい聖句があります。教義と聖約93章30−31節。「30すべての真理は,神がそれを置かれた領域において独立し,それ自体で作用する。すべての英知も同様である。そうでなければ,存在というものはない。31見よ,ここに人の選択の自由があり,(Behold, here is the agency of man,)またここに人の罪の宣告がある。なぜならば,初めからあったものが分かりやすく示されているのに,彼らがその光を受け入れないからである。」30節に,すべての英知(intelligence=人間)も同様である,とありますね。ですから神様がわたしたちをどんな境遇に置かれたとしても,人はそこで独立して自分で作用(act for itself)できますよ,作用されるのではなくて。ここに行動を選ぶ自由(agency)がある,と言われているんです。わたしたちには,特に教会員としていろいろな光が与えられています。

それに従うかどうか,行動するかどうか選択する自由(agency)はある。けれど,行動を選んだ結果には責任を伴うし,不幸なことも起こり得ます。「すべての人がわたしの与えた道徳的な選択の自由(moral agency)に応じて……自分自身の罪に対する責任を負う」(教義と聖約101:78)。周りが皆しているから大丈夫だとか,それは言い訳にならないんです。だからエージェンシーというのは独立(independent)という概念にも結びついている気がします。

人生は自由回答の試験

プロ野球ではよくフリーエージェントという言葉を聞きます。それはまさに自由に移籍できる選手のことですよね。自分にとっていいと思ったときに別のチームに移ってそこでプレーする。チームには作用(拘束)されず,自分で選んだ行き先のチームに作用(貢献)する。そしてもっとお金がもらえる。─それは教会の教義と無縁ではないのです。わたしたちはこの地上で,神の戒めに従い,人にはキリストのように接する中で,自分たちの可能性を追求することは大いに許されています。自分で決めて自分にとってベストだと思うことをどんどんしていいんです。

わたしたちは神様の性質を受け継ぐ神の子供として,神様から与えられた力を発揮できる。どんな方法でするかは,何と,わたしたちに任されている。そう考えると人間ってすごいなと思うわけです。わたしたちは独りでもすごいことを成し遂げることができます。重い責任も伴いますけど,これはすごくうれしい話じゃないですか。神様の賜物がいかに大きいか,垣間見る気がしますね。

例えば,試験で幾つかの選択肢から選びますよね。それは誰かに与えられた,すごく限られた選択の自由です。これを人生に当てはめると,Agencyとはただ選択する自由だけではなく,自分が世界を作り出すこと,無限に秘められた力を発揮することです。選択肢問題ではなく,わたしたちは自由回答問題で生きています。自由回答の方がよほど難しいでしょう。だから人によっては選択肢を好む気持ちがあると思います,楽だし。でも,受け身になってはだめです。Agencyというのは決して受け身じゃないんですよ。自由回答形式だと,一生懸命考えて,行動することによって,もしかしたら史上最強のすばらしい答えを出せるかもしれないんですよ。(談)◆