リアホナ2013年9月号 スタートから9 か月,変わりゆく青少年の学びの現場

スタートから9 か月,変わりゆく青少年の学びの現場

救い主のように教えることを目指して─町田ステーク多摩ワード 辻和明兄弟の場合

2013年1月から始まった青少年のための新しいカリキュラム「わたしに従ってきなさい」の「学習リソース」(「教師用手引き」または「教師用ガイド」ではないことに注意)の冊子が配られたとき,青少年の担当教師には困惑した人が少なくなかった。何をどうレッスンするよう指示されているのかが分からない。辻 和明兄弟もその一人だった。さしたる訓練も受けないまま,辻兄弟は冊子をじっくり読み込み,そこから自分なりにレッスンを組み立てていく。やがて,ステークの若い男性・若い女性・日曜学校の指導者が辻兄弟のレッスンをよく見学に来るようになった。─このカリキュラムは,従来の教え方と何がどう違っているのだろうか。辻兄弟に伺った。

レッスンプランがない!?

辻兄弟(以下T)─今までの教授法に慣れていると,(手引きには)まず導入があって,それからこれを提示して,こういう質問をして……と事細かにレッスンの流れが決められていますよね。この前,久しぶりに独身成人のクラスで教義と聖約を教えたんですけど,えらく教えやすかったんですよ。教師用手引きのとおりに教えれば指示が全部ありますから。青少年クラスにはそれがない。あるようでないんです。青少年の方がずっと難しいんですよ。3か月,4か月教えてきて悟ったのは,このクラスの主役は教師じゃなくて生徒だ,と。

愛が出発点

辻兄弟が青少年クラスの教師に召されて最初にしたことは,「主役」である生徒にアンケートを取ることだった。

T─1週目に,前の先生から引き継いだものをアレンジして,「ちょっとね,皆さんのこと知りたいので,これ書いてきてほしいんだけど」と渡したらいっぱい書いてきてくれて。好きな食べ物,嫌いな食べ物,才能,証があると思いますか? どんな性格ですか?……この子は絵が好き,この子はピアノを習っている,バイオリンを習っている,サッカー部,合唱部という子もいるわけです。こういう形で少しずつ生徒さんのことを身近に感じるようになって,ほんとうに愛おしくなって。毎週教会に来てくれることがすばらしい,このクラスに参加してくれてありがとう,そんな気持ちで接していると思います。

一人一人のことを知る

T─ヨハネによる福音書第3章の,ニコデモとイエス・キリストとの対話※1─人は年を取ってから生まれることが,どうしてできますか─その一連の対話でニコデモが,わたしはこう思いますと言って,質問して,イエス様がそれに答える。ニコデモはイスラエルの教師,指導者の一人でパリサイ人でしたけれども,イエス様を最後まで擁護した人です。イエス様は,ニコデモのことをよく分かったうえで彼に合った話をしているということを最初に感じてですね,まず子供たち一人一人のことを知らなくちゃならない,と,レッスンの始まる前に人間関係作りをするようにしたわけです。

 こんな50過ぎのおじさんが10代の子供たちと近くなるといったら,こっちが相当寄っていかないといけないので,例えばいちばん最初のときにわたしの似顔絵を─これうちの息子が描いてくれて,けっこううまいんですよ─これを出したら子供たちがクスッて笑うわけですよ。で,自分は長崎の生まれで年は幾つ,生年月日は,仕事は……こういうことを紹介したわけですね。その中で,例えば好きな女優は綾瀬はるかで,「今年,大河ドラマの八重の桜が始まるからよかったら見てよ,辻兄弟も見るから。」皆がクスッと笑う。そんな感じのところから少しずつやっていったわけです。

 救い主の時代にはテキストもDVDもない,どのように教えたかというとアナログだったと思うんです。目と目を合わせてその人の心を見抜いて,何を必要としているのか,この子の状態はどうなのかということを,御霊を受けて,一人一人,ワンバイワンだった。それが救い主の方法だと思うんですね。

レッスンを,でなく人を,教える

T─テキストにすごくいいヒントがあって。「あなたの最大の関心は感動的なレッスンをすることではなく,青少年が福音を学ぶように助けることに向けられていなければならない。」※2 だから自分だけ自己満足であってはならないんです。青少年がそこにいて,改心に向けてほんとうに福音を理解できたかということが大事で。こうですよと教え込むようなことはテキストに書いてないんです。だから自分でレッスンプランを,ストーリーを(霊感を受けて)組み立てていかないといけません。

オンラインの訓練資料にはこう書かれている。「どのようなことを教えるのか計画する際に,自分のもと で学ぶ青少年について祈りの気持ちで考えます。彼らはどのようなことを体験しているでしょうか。どのような試練や誘惑に直面するでしょうか。どのような疑問を持っているでしょうか。将来に備えるためにどのような教義を理解する必要があるでしょうか。……レッスンは,前もって決められた予定表ではなく,青少年の必要に合わせて進めてください。」※4

周りの世界から福音を見いだす

T─導入がとても大事ですね。3月は,イエス・キリストの贖いについて教えるところだったんです。そのときに北海道で猛吹雪があって,湧別町にお父さんと娘がいて,車が雪で動けなくなり,もうわずかな距離で小屋までたどり着けそうだったんだけど,お父さんが子供に自分の服を着せて覆いかぶさるようにして亡くなった,子供はなんとか助かった,という新聞の記事を最初に持って来ました。「先週のこういう事故を聞いたことがある人」って尋ねたらほとんど知っていました。「そのニュースを聞いてどんな風に感じましたか?」そう尋ねると,お父さんが自分の服を着せたから子供が守られた,とか,もうちょっとだったのにだれか助けに来れなかったのかな,とかいろいろな意見が出るわけです。「そのことを通して何か福音と関連づけられることはあるかな」と言うと,一人の生徒が,イエス様が自分の身を犠牲にしてわたしたちのために亡くなられた,ということをぽっと言ったんですよ。わあ!すごいね,って言って,「あなたたちのお父さんお母さんも同じ状況になったらおそらく,自分の身を犠牲にしてあなたたちを守ると思います」という話から入っていったんですね。

(救い主は)「理解しやすい簡潔な物語,たとえ,実例を分かち合われました。彼らが自分の経験や周りの世界から福音の教えを見いだせるようにお助けになりました。」※5

耳を傾けるのは愛

T─そこから展開して,選んだ聖文や指導者の言葉を読んで,感じていることを青少年に発表してもらいます。

 このように持って来るにはやっぱり前の前の週くらいから準備しておかないといけません。「この件についてどう思いますか,発表してください」といきなり言ってもこの世代の子にはできませんので。男の子から1人,女の子から1人,割り当てを与えます。精選された資料などを前もって渡しておいて,「じゃあ,あなたは準備して来てね。これを読んで自分がいちばん感じていることを話してください。聖句を1つ使ってください,最後は証で終えてください,具体的に5分だよ」ということを依頼しておく。これは非常によかったなと思います。チャレンジは毎週していました。で,前々日に,「明後日よろしくね」って電話するんですね。そうすると,分かりました,ってちゃんとやってきて,非常にいい発表を子供たちはするんですね。

 救いの計画がテーマだった2月,絵が得意な子に,「救いの計画の絵をお父さんに聞きながら作ってくれないかな」と頼みました。そうしたら描いてくれたんですよ!(上の絵)「わあ,よく描けたね!」「アロン神権者は伝道に行くでしょう? これをぜひ,クリップチャートの中に入れて使ってほしい」そして,全員分縮小コピーして配ったんです。大作を描いてくれたその子にはちょっとおいしそうなクッキーを渡しました。─こんな感じで生徒が参加する,生徒が発表する,生徒が質問する,「あなたはどう思う?」とにかく生徒に話してもらう。すぐに答えを言ってはいけない,生徒が考える時間を設けるということが常に念頭にありましたね。

一方的に教師が話しても子供はもう意見を言わないですよ。「耳を傾けることは一つの愛の表現である。耳を傾けることはしばしば犠牲を要求される。……彼らの考えていることを表現させるために自分の言いたいことを抑えなければならないことがある。」※6 自分の言いたいことの10分の1くらいで我慢して子供たちが自分から話せるようにします。「沈黙を恐れてはならない。質問に答えたり,自分の気持ちを表現したりするのに考える時間を必要とすることがある。質問を投げかけた後,霊的な経験を分かち合った後,あるいは生徒が自分の考えをよく表現できないときに,間を置くことが必要である。」※7 ─こうしたいいヒントがテキストにいっぱいあったんです。

行動を起こさせる 

そして,青少 年がレッスンを通じて理解したことを行動に移すよう,具体的に決心して生活を変えてくれるよう,行動を起こさせるようにチャレンジします。そのためには祈るとか,毎朝セミナリーに来るとか,こうして教会に毎週来るとか,聖文を読むとか。それはほんとうにすごいことです。

smycと同じ方法で教える 

前述の,割り当てを与えるのも行動を促すことである。この「行動を通じて学ぶ」方法は先日の smyc でも貫かれていた。

T─そして,いつも最後は証で終えるようにしてきました。30年くらい教会に集っているおじさんの証ですね。

 それから,このカリキュラムは日曜学校,アロン神権,若い女性,セミナリーと全部テーマが共通してつながっているんです。1月は神会,2月は救いの計画,3月はイエス・キリストの贖い……この子たちが,男の子は18歳,女の子は19歳から宣教師になって,それをそのまま教えられるように,そのための備えだな,と思います。

 ですからセミナリーにも,アロン神権・若い女性のクラスにもわたしは出席しました。どの子たちがちゃんと来ててどんなふうに参加しているのか。出ていないと,そのクラスでの子供たちの様子が分からないからです。また出席していると,「あ,日曜学校の辻兄弟はわたしたちに関心を持ってくれているんだな」と思ってもらえたのでしょうか,3か月4か月するうちに気楽に辻兄弟,辻兄弟と話しかけてもらえるようになり,時には恋の相談とかもしてもらえるようになりました。最初に言ったように子供たちがすごく愛おしくかわいいんです。

 救い主のように教えるというのは難しいですよね。でも,わたしたちは,今までの教え方,今までの教師よりももっと高いところを主に求められているんだなあ,と。この次世代の子たちも高いレベルを求められているんですよ。18歳と19歳で「はい,伝道に行けます」と言えるように。◆