リアホナ2013年10月 御霊を知る場所 神戸

御霊を知る場所 神戸

 岡田 琢治リアホナ編集室神戸セッション担当

神戸セッション2日目,火曜日の午後─青少年たちは音楽プログラムの練習かバラエティーショーの予選,または自由時間を思い思いに過ごしている。そうした,少しのんびりした時間帯のこと。人気のなくなった視聴覚室の隅で,カウンセラーを示す同じ色のポロシャツを着た兄弟と姉妹が何やら深刻そうに話している。改崎武尊兄弟と改崎恵里紗姉妹。一見,同じカンパニーを担当する二人が打ち合わせているように見えるが,実は二人はきょうだいで,担当しているのは別々のカンパニーである。4日目朝の「福音学習の時間」を教える担当の妹の恵里紗姉妹が,レッスンの進め方について兄の武尊兄弟に相談しているのだった。武尊兄弟は22歳の帰還宣教師,恵里紗姉妹は19歳で,2年前のefy京都セッションには青少年の立場で参加していた。「efyのときはほんとうに受け身でした。自分のことばかり考えていました。今回はまったく違います。ひたすら青少年の状態を見ています。こんなに青少年のことを思い続けるのは初めての経験ですね。」

恵里紗姉妹の悩みは,カンパニーの子たちに御霊や啓示についてどう教えるか,である。「(青少年自身が)やっぱり何か,分かってない,多分,どういうのが御霊とか啓示なのか……」恵里紗姉妹が自信なさそうに言う。担当するカンパニーは中3と高1の年少グループで,予想外に発言が少なく,質問を投げかけても返答がない。カンパニーを引っ張ってくれる積極的な子がいない。「教会になかなか行ってない子とかは,当てられるのが嫌だったりする。その気持ちもすごい分かるから……」しかしカウンセラーが強引に進めるのではなく,彼らにほんとうに伝わるレッスンをしたい,と恵里紗姉妹は願っている。

武尊兄弟は参照聖句や資料,レッスンの組み立て方,と次々に提案してくれる。いちいちうなずいて聞いている恵里紗姉妹の目からぽろぽろっと涙が落ちる。カウンセラーだからといって即,自信満々なわけではない。不安も迷いもある。けれども青少年の前でそれは見せない。やがて恵里紗姉妹は顔を上げる─「うん,いける気がする。……持つべきものはきょうだいやなぁ。」「良き兄がいてよかっただろ。」(笑)─ティッシュで涙を拭きながら恵里紗姉妹はようやく笑顔を見せる。

御霊の識別方法─実践で知る

この火曜日の午後,クラスに分かれてのレッスンが行われた。その中で,セミナリー・インスティテュート地域ディレクターを務める金城寛兄弟ご夫妻は,御霊を認識し啓示を受ける方法について青少年に教える。「もしも携帯電話がなかったら?」と金城姉妹は問いかける。一日もやっていけない!と答える青少年たち。そこで金城姉妹は言う─「御霊は神様への携帯電話です。“神さま携帯”を持ちましょう!」

御霊を招くための条件として金城兄弟は祈りと聖文を挙げ,セミナリーの生徒のうち,個人の祈りと個人の聖文学習がどれくらい生活の一部になっているかを話す。

毎日祈る……53%

週に4日以上祈る……11%

毎日聖文を読む……22%

週に4日以上聖文を読む……16%。

「しばしば,神様と自分しか知らないことに人生の成功が左右されます。」そして金城兄弟は,祈り,聖文に加え,柔和で心のへりくだった状態にあること,を強調する。「どんなときに家族やきょうだいに対して怒るでしょうか?」金城兄弟は,心に少しの怒りを抱いたため,御霊の導きに従いそこねた自身の経験を語る。

さらに,リチャード・G・スコット長老が語る,啓示を受ける方法を青少年に分ち合う。「祈るとき,神様からの答えを想像して祈るんです。─神様がこう答えられるのではないか,と想像して,思い浮かぶ答えをどんどんメモしてください。それはほんとうにただの想像でしょうか。神様からの答えがそこに入っていないでしょうか。」

金城兄弟は「今日,個人の祈りをしましたか? と30秒後に聞きます。まだの人は今,祈れば大丈夫です」といたずらっぽい表情で予告する。

そして30秒間の静かな時間が流れる。

「30秒ってけっこう長いでしょう? 祈ったら同じ時間だけ耳を傾けてください。会話をするときは話したら聞かなければなりませんね。たった3分で神様とお話ができるんです。」祈りの方法,聖霊を感じる方法,答えを受ける方法を金城兄弟は具体的に教え,その場で青少年たちに試させる。

こうした機会が,smycプログラムの随所に散りばめられている。

木曜日の朝7時30分,改崎恵里紗姉妹による「福音学習の時間」のレッスンが始まった。その日のテーマは,「深く考え,受けた印象,自分の思いや気持ちを書き留めましょう」。祈った後,聖文を読んだ後,自分の心を深く内省して,そこに浮かんでくる印象や思い,考えを書き留める─前日,金城兄弟が教えた,祈りの答えを受ける方法とも通じる。

恵里紗姉妹はまず,抽象的な図形の描かれたプリントをカンパニーの皆に配る。

「自分がこの絵から受けた印象をこれに描き足して,自分なりに絵を完成させてください。360度回転させていいので……力作を待ってるよ。」─印象を受けるとはどういう感覚かをまず味わって確かめさせる。図形から受けた印象を動物の絵にする子,文字にする子……青少年たちは思い思いにプリントへ書き足しては「できた!」笑い声が響き,にぎやかに発表する。

恵里紗姉妹は続ける。─「絵を見て,『何かな』と方向を変えて見たり,いろいろ考えてもらったと思います。じゃあ,それを聖典に置き換えて。─聖典を愛しながら楽しんで読むのがすごく大切だと思います。ゆっくり読んで,深く考え,気になる聖句や単語をチェックしたり,線を引いたり,なぜかなと疑問に思ったり,自分の生活に当てはめたらどうなるか考えたり……感じた印象や思いや気持ちを書き留めてください。まさに実践だよ。」

指定された聖文はモロナイ書第7章32から48節。よく理解できるように個人でまず祈り,そして読み始める。こうして青少年たちは,聖文を通して霊感や啓示を受ける方法を実践的に教えられる。一日の始まり,朝のひとときに,柔和で静かな時間が流れる。御霊を感じる時間とはどのようなものか,青少年たちはその一端を味わっている。とてもシンプルで穏やかな恵里紗姉妹のレッスン,そこにとどまる御霊のささやきを彼らは感じているようだ。

行動することで体得できること

週の半ばの夕方,後方支援本部にスタッフ用無線が飛び込んで来る。「ユースが一人いなくなったので捜しています……」恵里紗姉妹のカンパニーだった。宿舎や施設内を走り回って探しながら,恵里紗姉妹の脳裏にルカ伝の聖句が浮かんできた。「あなたがたのうちに,百匹の羊を持っている者がいたとする。その一匹がいなくなったら,九十九匹を野原に残しておいて,いなくなった一匹を見つけるまでは捜し歩かないであろうか。」※1─「そのとき,神様の気持ちを強く感じました。ほんとうに一人一人を愛してくださって,道に迷ったときにすごく心配して,助けの手を差し伸べてくださる……。」ほどなく,その子は見つかった。─その晩,就寝前のディボーショナルで恵里紗姉妹は,そのとき感じた気持ちを分かち合う。皆,強く御霊を感じてくれたようだった。

─御霊という言葉は普段から教会で日常的に繰り返して聞かされる。しかし,御霊とは何か,どのような方法で招くことができるのかを具体的に教えられ,その場で自分で試してみるような機会がこれまで青少年にあっただろうか。

御霊を感じるには具体的な方法がある。柔和な心で聖文を読み,祈り,静かな時間の中で心に受けた印象を認識し,書き留める─そうしたことを何度も繰り返すうちに,まるで自転車に乗る方法を体当たりで会得するように,御霊を受ける方法,祈りの答えを受ける方法を体得していく。

このようなノウハウは,伝道に出ることによってよく身に付けられる。自動車の運転や航空機の操縦のように,実際に路上や空に出てみて,経験を積むことによらなければ身に付かない類のことがある。伝道の現場に出てみると,毎日,御霊の導きを受けなければ何事も前に進まないことを実感する。そうした試練を経験して,宣教師は祈りの答えを受ける方法,啓示を受ける方法,御霊の導きを認識する方法を自分のものにする。もちろん,普段の生活の中でも,特に試練の最中にあるときなど,同様に体得する機会はある。しかし,現実の生活に煩わされず,無私の心で愛を示す宣教師の時期にこそ最も集中して身に付けられるのも確かだ。

恐らくefy(smyc)は,伝道の経験と日常生活との間に橋を架けようとするプログラムである。青少年の新カリキュラム「わたしに従ってきなさい」も同じ考え方で組み立てられている。そこで青少年たちは宣教師のように,自ら行動することを通じてしか学べないことの一端を学ぶのである。

金曜日,すべてのプログラムが終わりフィナーレを迎えるとき,セッションディレクターの工藤正敬兄弟は青少年に語りかけた。「皆さんはこのsmycで幸せな気持ちを味わいましたね。それをぜひ,家に持ち帰ってください。」

リーハイの示現には,白くて甘い,人を幸せにする命の木の実が登場する※1。青少年たちが味わった「幸せな気持ち」とは,主の慈愛を感じさせる聖霊の影響力を感じることだろう。すなわち,聖霊が人の心に満たされるという「希望と完全な愛」─smycにおいて青少年たちは,その実の試食品を味わった。それが好ましいものであると知ったので,彼らの心に望みが生まれた。

smycで試食した,聖霊が授けられたときの幸せな気持ちをまた味わいたい。その思いから(親や教師に言われてではなく),「伝道に行きたい」「神殿で結婚したい」といった望みや決意が青少年の心の内に生まれてくる。

カンパニー最後の証会で改崎恵里紗姉妹は青少年に語りかけた。「皆さん,御霊を感じて心の変化を感じたんじゃないかな,と思います。ぜひ,帰った後も,このとき感じたことを思い出してください。そして度々この聖句を思い出してください。『もしあなたがたが心の変化を経験しているのであれば,……今でもそのように感じられるか尋ねたい。』(アルマ5 :26 )」

2年前のefy京都セッションで,恵里紗姉妹は家族への感謝の気持ちを新たにして持ち帰り,家族と分かち合った。efyで感じた御霊の感覚から,毎朝のセミナリーのさらに前に起きて,祈りと聖文,その印象を書き留めることを続けようと決心した。それはセミナリーに取り組む意識をも一新させる。「今の自分に必要なこと(霊感)を受けられるすばらしさ,祝福を感じました。」しかし,efyではカウンセラーや友達の助けで続けられたけれど,帰ったら独り。「両親の助けが必要でしたね。わたし独りではだめでした。」

家に持ち帰ったその望みを忘れないように,彼らが,日々の生活において聖文に触れ,祈り,柔和な内省の時間を持って受けた印象を書き留める─そんな環境を整えてあげるのが親や指導者にできる最善のことではないだろうか。◆