リアホナ2013年7月号 「神に仕えたいと望むならば……」

「神に仕えたいと望むならば……」

霊によって働く車いすの宣教師─福知山地方部豊岡支部 中嶋晃大 長老※1

中嶋晃大長老は2012年11月に帰還した宣教師である。ただ彼は,自転車に乗ることも街角で声をかけることもない。それでも中嶋長老は同僚たちから頼りにされた。

1歳4か月のとき水の事故に遭い,低酸素脳障碍によって手足が麻痺,発声にも困難を抱える晃大兄弟。しかし意識と意志はしっかりしており,人一倍の頑張りを見せてきた。幼いころから文字どおり血のにじむ厳しいリハビリをこなし,小学校の後半から中学にかけて困難を承知であえて普通学級に通い,定時制高校の普通科を卒業して福祉大学に進学する。そのひたむきな姿に接し,周囲には支援の輪が広がっていった。

晃大兄弟は高校1年のとき,宣教師や神権者に優しく抱きかかえられながらバプテスマを受けた。すぐにアロン神権を受け,ホームティーチャーとして奉仕する。聖典を読むのが大好きで,休まずセミナリーに通う。「病気やけがで休んだ友達がいると,『心配だ。電話して』と言ったり,見舞いに連れて行ってほしいと頼むような子でした」と母親の由美子姉妹は振り返る。晃大兄弟の集う豊岡支部の会員は言う,「晃大兄弟が熱心に奉仕する姿はわたしたちの模範です。彼が行うならば,わたしたちが行わない理由はありませんから。」

神殿参入にも強い希望を抱いた。「ぼくは大丈夫だから。水の中に入り,身代わりのバプテスマの儀式を受ける!」水に沈められることへの周囲の心配をよそに,晃大兄弟の意志は固かった。家族と支部の会員たちの応援の下,2009年3月,初めて神殿で儀式を受けた。「大丈夫,神様が助けてくださる!」いつも恐れを知らず,自分の身体の条件でできる限りのことを実現してきた。

そんな晃大兄弟にも,ただ一つ,見果てぬ夢があった。それは専任宣教師として主に仕えること。それにはどうしても越えられないハードルがある。「言葉」だった。晃大兄弟の話す言葉はゆっくりで不明瞭だ。慣れている家族には聴き取れるものの,初めての人に伝えるのは難しい。それは彼自身がいちばん自覚していることだった。

2011年,23歳の晃大兄弟は地方部神権会に集っていた。その夏,神戸伝道部に赴任したばかりのリチャード・G・ジンケ伝道部会長が訪問していた。集会後,ジンケご夫妻とあいさつを交わした晃大兄弟は,胸の奥にしまっていたあの願いを勇気を出して伝えることにした。躊躇しながら,申し訳なさそうに話す晃大兄弟の言葉に夫妻は優しく最後まで耳を傾ける。そして─「大丈夫です。できる限りのことをします。だから少し待っていてください。あきらめないでくださいね。」ジンケご夫妻はそう言い残して帰って行った。

2か月後,後期の福知山地方部大会の冒頭で,ジンケ伝道部会長はこう切り出す。「今日は最初に神戸伝道部としてとても大切な発表があります。中嶋晃大兄弟,前に来てくれますか。」豊岡支部の神権者が,笑顔で立つジンケ会長の横まで車いすを押してくれた。「あなたを末日聖徒イエス・キリスト教会日本神戸伝道部で働く専任宣教師に任命します。」そう告げてジンケ会長は晃大兄弟に4つの働きを求めた。それは─

● 毎日,ゾーン※2 の宣教師のために祈る

● ゾーンの求道者一人一人について祈る

● 可能な限り毎週,地区の宣教師のミーティング,またゾーン大会に出席して宣教師の技術を学ぶ

● ゾーンのすべてのバプテスマ会に出席して,儀式の証人となる

「このことができますか?」晃大兄弟は驚きと喜びで,車いすから落ちそうになるほど体の緊張が強くなった。何とか緊張を静めて「はい」と答えると,ジンケ会長は 「今日から中嶋長老ですね,おめでとうございます」と左胸に宣教師の黒い名札を付けてくれた。その様子を見守る会員たちの目に涙があった。

中嶋長老の働きは家族に支えられていた。特に,宣教師として赴くあらゆる場所へ送り,介助する母親の由美子姉妹に負担がかかる。しかしその重荷は意外な方法で軽くされた。教会員ではないご主人が温かく支えてくれたのである。伝道の中盤,由美子姉妹が体力的にもきつくなったとき,ご主人は突然,仕事を早期退職した。そしてそれまで以上に中嶋長老の伝道に協力してくれる。家族として収入面の不安はあったものの,中嶋家は兼業農家だったこともあり,不安や煩いは主にゆだねることにした。─ちなみにご主人はその後,年々失業率が高まる豊岡市にあって,息子の伝道が終わるやいなや正社員として,非常に良い条件での再就職を果たしている。「神様はわたしを助けるために夫に仕事を辞めさせたのではないでしょうか。見事なタイミングでした」と由美子姉妹は語る。

ジンケ会長は中嶋長老の帰還後にこう話した。「宣教師たちは何回も彼の祈りが必要だと感じました。そんなときはいつも彼に連絡して求道者の状態を説明しました。特別な祈りを注文したのです。……(中嶋長老は)すべての集会に出席し,すべてのバプテスマを見守りました。宣教師の手引きも熱心に学びました。またお母さんは最大限に息子を支持しました。彼女の勤勉さと真心は驚くべきものです。特別に感謝します。……中嶋長老はわたしに一つの大事なレッスンを教えてくれました。それは,だれもがイエス・キリストの教会の中で責任を果たすことができるということです。『あなたがたは神に仕えたいと望むならば,その業に召されている。』※3 神様にとっていちばん大切な資格は,望みです。望みがあれば,何らかの欠落があってもキリストの贖いにより完全になるのです。」◆(レポート:村田徹也兄弟)

※1─「肢体不自由の身体で模範となって生きる」『リアホナ』2009年6月号チャーチ・ニュース,12参照

※2─ゾーンとは,伝道部内の地理上の区分で,比較的近い幾つかのワード/支部がまとまって1つのゾーンとなる。

地区(ディストリクト)はさらに小さな地理単位

※3─教義と聖約4:3