リアホナ2012年9月号  福音を,教会を,この幸せを伝えたい!

福音を,教会を,この幸せを伝えたい!

福音と音楽と夢と─那覇ステーク 那覇東ワード 武富南海 姉妹

「今から歌うのは花っていう歌です。この世界もわたしたちも神様の創造物なんですけど,ほんとうにきれいだなと思って作った歌です。」2011年の夏に行われたefy京都セッションのバラエティーショーの一コマだ。ギターを持って舞台に現れた少女は,1,000人の同世代のユースが見つめる中,静かに歌い始めた。

ゆらり木漏れ日が頬にそっとかかっては

見上げる空の青に 目を細めてる

春の訪れに 聞こえてくる鳥の唄

風にそっと揺られるは 一輪の花

今日私がふいに恋をしたのも

届かぬ想いに胸を焦がしても

ただいつもの同じ笑顔で空を見上げてる

ほら喜びを身にまとって

美しい唄を奏でてる

誰に聴かせるわけでもないのです

ただ花として生きている

(「花」 作詞作曲 武富南海)※1

ハスキーでありながら透明感のある落ち着いた声と,滑るように流れるギターの音色が会場に広がる。彼女は沖縄県那覇市に住む武富南海姉妹。児童教育学科初等教育コースを専攻する大学2年生で,将来の夢はプロのシンガーソングライターだ。

南海姉妹が音楽を志したきっかけは,従兄弟の家で見た吹奏楽部が主題の映画だった。「わたしは小学生のころずっとバスケ部でした。だから中学校もバスケ部に入るつもりで仮入部までしていました。でも6年生が終わった春休みに映画『スウィングガールズ』を見てびびびっときて,即,吹奏楽部に変えました。」映画の影響を受けて南海姉妹はサックスを始める。「サックスはわたしに合っててよかった」と言う南海姉妹の家庭は音楽一家だ。父親の良悟兄弟は若いころからバンドを組んでいて,今でも現役で活動している。青少年にギターを教えもする。南海姉妹は5人きょうだいの末っ子で,3人の姉と兄が皆,音楽とかかわっている。長女の里乃姉妹は歌とギターが得意で歌手を目指したことがある。長男の篤兄弟はダンス,次女の麻菜姉妹はドラムをたしなむ。「お父さんがバンドをしていたので,わたしは小さいころから歌や楽器に触れていました。姉(里乃姉妹)も昔は家の2階でバンドの練習をしていて,わたしは片隅で聞きながら『いつかわたしもやるぞ』みたいな気持ちがありました。」そんな下地があったからだろう,南海姉妹は中学2年になるころから歌を作り始める。本格的に歌手を目指し始めたのもこの時期だ。「歌手になろうと思った理由は,人に影響を与える仕事だと思ったからです。ちょっとした刺激で考え方や気持ちって変わるし,その影響力って大きいから。歌できっかけを与えることができたらな,みたいな。わたしもその映画の女優さんにあこがれたから。」

オーディションとモルモン書

「メロディーはいつでもどんなときでも浮かびます」と南海姉妹は言う。室内でも屋外でも思いついたときにハミングや適当な言葉で歌ってボイスレコーダーに収める。完成した曲もあれば,ワンフレーズだけの曲もある。家に帰って聞きながら曲を広げていく。その曲想によって歌詞も決まる。「歌詞を作るのはここ(自分の部屋)です。」録音したメロディーを聴きながら言葉を紡ぐ。「歌詞は大変です。言いたいことをメロディーにちゃんと入れ込むこととか,言葉を探すのは大変です。そのために何をしているかというと本とか読んでいます。小説とかファンタジー,ミステリーとか。映画も見ます。」彼女の作る歌の中に直接的な福音の言葉はない。「でも光という言葉はよく出て来ます。教会でも光ってイエスさまのたとえだったり,道だったり。福音はやはりわたしの作る歌とつながっています。直接表していないだけで,自分の持っているものが作詞に影響します。」今までに60曲ほどの歌を作った。

初めてのオーディションも中学2年生のときだ。自分の作った歌詞に長女の里乃姉妹の曲をつけて二人組のユニットで応募した。このオーディションは,グランプリを取ればテレビの主題歌になるという全国規模の大きなものだった。「姉の曲にわたしのサックスをつけて。そうしたら最終まで行って,東京まで行って決勝で負けたんです。わたしが歌って,姉がギターを弾いてコーラスして,中間でわたしがサックスを吹いて。斬新だったと思いますけど」と笑顔で南海姉妹は話す。

しかし,彼女はそこにたどり着けるよう努力もした。「デモテープを出したあとドキドキしたんです。何をしたらいいか分からなくて。そのときからモルモン書を読み始めました。何かいいことがあるかなって。」審査結果を待つ間,モルモン書を1日5章読むことと,腹筋100回を自分に課してやり続けた。「これだけ頑張るから御心だったら結果つけてくださいっていう気持ちだったかもしれません。下心ありきの聖典読み始めです。別にこれをやったから必ず(良い結果が)来るとは思っていないけれど,プラスアルファーで効果があるといいなって。でも結果が出ちゃったからそのまま読み続けています。」

少し恥ずかしそうに笑いながら南海姉妹は言った。「最初の証ができました。今も読んでいます。もし読まない日があったら翌日倍読んでいます。」決勝に残ったことと,毎日の聖典学習とがつながって,彼女にとっての信仰の錨となった。

音楽活動と福音の両立

その後,九州の音楽祭に出場した際に,あるプロダクションの福岡支部のアーティスト部門(人材発掘)の人に声をかけられる。高校3年生の時に同じ人に勧められてそのプロダクション主催のオーディションを受けた。「グランプリは取れなかったんですけど,それからずっとわたしを育ててくれています。作った曲を送って,いいのがあったら福岡まで行ってレコーディングさせてくれたりとか。レコーディングした曲は20曲ほどです。本部が『いいね,契約して出そう』ってなるように頑張ってくれています。」

レコーディングと教会の集会がかぶることはないのか? と問うと南海姉妹は言う。「レコーディングとかは土日が多くて。でも午後なら午前中福岡の教会に行っています。最近ネットなどでプロデューサーの方にも教会のことを伝えているので,これからもっとやりやすくなると思います。」両立は可能かと続けて問うと,「はい。歌手になることもひとつの伝道だと思っていて,信仰面を育みながら歌手生活ができたらと思っています。ほんとうの伝道はまた別に行きますけど。」彼女の言葉に迷いは一切感じられない。「わたしがモルモンっていうことをファンの人が知りたいと思ったらネットですぐに出て来たりします。もし歌手になって伝道に出ることになったら正式に発表する機会があるかも知れません。」彼女にとって歌手であることと教会員であることには何の矛盾もない。

最近は地元のライブハウスでのライブに参加するようになってきた。「最近月1くらいのペースです。どんどん声がかかるようになりました。」まだ回数は少ないが「南海さんのファンです。ライブ全部聞きに行ってます!」取材中にそんな声も聞こえてきた。ライブハウスなどにはお酒やたばこが必ずある。それについて南海姉妹は「今のところあまり影響はないですね。これからは分からないですけれど。ライブ仲間にたばこを吸う人も今のところあまりいないです。もしそういうことが起きたら,断るか教会のことを話しますね。」「普段生活している中でも変わらないじゃないですか。教会員として皆と違うじゃないですか。知恵の言葉だって純潔の律法だって。その違いが少し大きくなっているだけで。でも教会員として生きていることで皆,必ず,絶対いい影響をほかの人に与えていると思うので。あとは恐れずに神様とちゃんと仲良くしていれば,怖いことはないのかなって思います。」教会員であることを積極的に話す南海姉妹の中では,人と違うことや誘惑に負ける恐怖よりも,福音を伝えたい勇気,神様を信頼する気持ちがはるかに勝っている。

御心に添って夢を追い求めることの力

夢を追い求めるのに教会員であることはほんとうに障害にならないのだろうか。学業や部活と教会の両立で苦しむ青少年は多い。「確かに障害になることも多いです。でもわたしは中学生のとき吹奏楽部の部長だったんですけど,わたしが部長だということで日曜日は休みでした。神様は助けてくれます。ほんとうに頑張りたいと思ったら道を作ってくれます。わたしが無理と思っても無理じゃなかったりとか。」

「わたしの場合は福音と音楽が結びついたので。ユースのときは特にまだ,部活や勉強と福音がどう結びつくのかよく分からないかもしれません。でも,主の言われることをちゃんと守っていたら祝福はもらえます。セミナリーに行きなさいとか,聖典を読みなさいとか,お祈りしなさいとか,教会に行きなさいとか。分からなくて反抗するよりも,分からなくてもとりあえずやっていたら証は持てます」と南海姉妹は言う。

「efyもほんとうに良かったし。もっと伝えたいって思いました。伝道じゃないけれど,もっと福音,教会のことを伝えたいと。それまでも証はあったつもりだし,あったんですけど,それだけでした。でもefyに行った後は,それを伝えたいという思いになりました。幸せすぎて。この幸せを友だちが知らないということがもったいなさすぎると思って。人が生きるのは喜びを得るためである。あの聖句の意味がよく分かりました。そう感じた子はいっぱいいたと思います。」1年前のefyで感じた熱い思いを彼女は抱き続けている。「福音を,教会を,この幸せを皆に伝えたい。」彼女にとってその方法が音楽なのだ。

「わたしの歌が評価されているなら,それは神様の力です。たぶん,福音のない生活をしていたら今の曲は作れていないし。小さいころから賛美歌を歌ってたし,プライマリーの発表とかも影響しています。歌にしろ曲にしろ,わたしの力とは思っていません。全部神様につながっていますよね。今もコンサートをするときにお祈りとか聖典は必須です。」

「わたしは自分にそんなに自信があるわけではないんですけれど,自分が神様の子供だって知っているし,特質が与えられていることも知っています。それは信じきれるので。ユースの子たちっていろんな葛藤があるかもしれないけれど,みんな神様の子供じゃないですか。こんなに期待されているし,もっと自信を持ってやったらいいんじゃないですか。自分の力の前に神様の力を信じる。己の知識に頼ってもだめですよね。持っている才能も神様から与えられたもの。それはやっぱり人のために使うべくしてあると思うので,その目的で伸ばしていけばちゃんと伸びると信じています」と南海姉妹は目を輝かせる。

そして同世代の若者の活躍を強く望む。「あらゆるところでそういう子が出て来ると教会が発展するから頑張ってほしいです。アメリカ(の会員)ってけっこうメディアに出ているじゃないですか。日本ももうちょっと広がるといい。そのためにはちゃんとした芯が必要だから,信仰面も頑張ってほしい。」教会か夢かの二者択一ではないと南海姉妹は言う。「一時的にはどっちかかもしれないけれど,ほんとうに神様に頼って頑張っていたらいずれ必ず祝福があると思います。やっぱり神様を第一に,です。」

南海姉妹の作った歌と歌声は少しずつファンを増やしている。九州のある県庁で働く若者が最近県庁のPR動画を作成したが,そのBGMに南海姉妹の曲を選んだ。※2この9月にはその県庁でライブを行う。福音を愛する彼女の歌は垣根を越えて羽ばたいていく。◆