リアホナ2012年10月号  人が,変化するという奇跡

人が,変化するという奇跡

全日本社交ダンスチャンピオン─山口地方部 徳山ワード 藤井 優花 姉妹

「わたしにとってダンスは生活の一部です。曲が流れると踊りたくなります」と言う広島ステーク徳山ワード(山口県)の藤井優花姉妹は,まだ表情にあどけなさの残る高校1年生。髪を後ろに束ね,上下ともに黒いウェアに身を包んだ彼女は少しはにかんで,壁が一面鏡張りのフロアに立った。音楽が流れ優花姉妹が踊り始めると,その表情は自信と気迫に満ちたものに一変する。次々に変わる音楽に合わせて繰り出されるダンスの勢いに,束ねた髪がほどける。ルンバ,ジャイブ,チャチャ,サンバ,ワルツ,タンゴ,スローフォックストロット,クイックステップ。優花姉妹は水を得た魚のように踊り続けた。

何よりも好きなもの

優花姉妹は2歳のころからクラッシックバレエを習い,社交ダンスは小学3年生のときに始めた。クラッシックバレエは中学2年の終わりまで1 2年間続け,今は社交ダンス1本に絞っている。父親の一雄兄弟と母親の容子姉妹はプロのダンサーで,ダンス教室を営んでいる。2歳年下の弟の愛輝くんもクラッシックバレエと社交ダンスをしている。「バレエを始めさせたのは将来ダンスをしてもらいたかったからです。わたしが好きなのでやらせたいと思いました。小さいころから東京の方にも習わせに行かせています。世界に出て行ってもらいたいという気持ちがありますね」と容子姉妹は言う。優花姉妹は昨年の夏,東京で行われたジャパン・ジュニア・ダンス・フェスティバルに出場した。そこで容子姉妹の期待にこたえ,中高生の部,ソロで踊るラテンアメリカン部門のサンバとルンバ2種目総合で優勝する。

「信じられませんでした。ちょっと出てみようかなって思って応募したんですけど……。うまい人たちを見て勉強しようという気持ちで行きました」と優花姉妹はほほえんで首をすくめた。そうは言うものの優花姉妹の九州での成績はいい。小学5年のころから頭角を現し始め,近年の全九州大会では優勝が常だ。今年の同フェスティバルでも昨年と同じ部門で準優勝,同性のパートナーと組んで踊る中高生の部の4種目総合で優勝している。

「練習は火水木土曜日の週4日,1日1時間半,土曜日は11時から3時までの4時間やっています。大会前は週6日くらいで,日曜日を外してやっています。」踊っているときは「今までに教わったことを意識しながら踊っています。東京の先生に習ったことを思い出しながら踊っています。でも,音楽がかかっていると考えてもできないときがあるので,音楽がないときとか,ダンスが終わったあととかに独りで隅っこでゆっくり練習しています。」家で,うまいプロの先生のダンスをDVDで見て研究したりもする。「弟もダンスを見たり踊ったりするのが好きですから,二人でよくDVDを見たり言い合ったりしています。」友達と遊びに行くよりも「ダンスをやっている方がいいです。それくらい好きです」と優花姉妹。

学校から家に帰ると夕飯を食べてすぐにダンススクールへ向かう。スクールには優花姉妹よりも年下の子たちが通って来ている。彼女たちは優花姉妹の踊りを見ながら踊る。ペアを組んで練習する際には,優花姉妹は自分の踊りをやめて指導に当たる。肩や首筋に手を当てて,正しい姿勢を取れるようになるまで何度も促す。彼女は生徒の模範であり目標だ。その様子からも優花姉妹がダンスを何よりも愛し,楽しんでいるのが伺える。

安息日のチャレンジ

ダンススクールの壁に大会の年間予定表が張ってあった。見るとそのほとんどが土日になっている。安息日の大会に出場するのかと問うと,練習で教会を休むことはないが,大会ではある,と優花姉妹。「ダンスの大会には(教会を休んで)行っていました。2か月に1回とか3か月に1回とか。お母さんには,ダンスの方に出たとしても,そこでもその日が安息日であることを忘れないで,ちゃんとお祈りをして,自分のパートナーや先生たちにも良い模範を見せることができるように,(それを)頭においてできたらいいね,と言われます。」社交ダンスはパートナーと組んで踊るダンスだ。また近年になってスポーツとして正式に認められた競技で,それまでは子供は習うことができなかった。そのためだろうか,優花姉妹と同年代の男の子のダンサーが少なく,山口にはいない。優花姉妹は他県の人とペアを組んでやってきている。現在の彼女のパートナーも熊本在住の大学生で教会員ではない。相手が成人しているために彼女は大人の部門で大会に出場する。相手を替えることのできる子供の部門と違って成人部門はパートナーとしか踊ることができない。優花姉妹が安息日を守ればパートナーが大会に出られない。

「あの,わたしefyが終わってから安息日について考えるようになって……」不意に優花姉妹が顔を上げて言った。「社交ダンスって相手があるのでなかなか断れなくて,相手が教会員じゃないので。あちら(パートナー)の先生は厳しいのでちょっと言いづらかったんですけど,パートナーのご両親にもパートナーにも熊本の先生たちにも,わたしがモルモンで教会に行っていることを話してからは,大会の近くで教会があったら『行っていいよ』って言ってくれるようになりました。前回は発表会のようなものに熊本で出ないといけなくて,わたしは午後からの出番だったので,午前中に会場に近い熊本の教会を探して聖餐会に参加できるようにしました。」

「行けないのは仕方がない」という思いから「何とかして行こう」という思いへの変化が優花姉妹の言葉の中にあった。

efyがもたらした変化

優花姉妹は昨年,efy京都セッションに参加した。カンパニーで世話をしてくれたカウンセラーに大きな影響を受けたと言う。「わたしが変わりたいと思ったのはカウンセラーの二人がすごく模範的だったからです。(カンパニーにはユースが)20人もいるのに一人一人気遣ってくれて。一人,男の子に行きたくないっていう子がいて,ずっと携帯をいじっていたんです。でも最終的にその子は証会に出て泣いていたんです。そこまで変わらせる? 何かすごかったです。愛がすごかったです。イエス様の愛を感じました。そうなりたいって思いました。それで伝道に出たいと思いました。彼らは帰還宣教師だったので,efyが終わっても宣教師になりたいって思っています。」「今までは『宣教師になりなさいよ』ってお母さんとか教会のみんなから言われてて。わたしもそうかなって思っていたんですけど,自分の意志は薄かったです。でもそれが,すごくなりたいなっていう気持ち,なりたいっていうか絶対になろうっていう気持ち,伝道に出たいという気持ちになりました。」漠然としていた伝道がはっきりとした形になった。

「神殿結婚もしたいとefyで思いました。カウンセラーの人も3年後に神殿結婚するよって言っていて,神殿結婚の祝福はすごいよとか言われて。」「クラスが分かれてミニレッスンがあったじゃないですか,そこでも神殿結婚について聞いて。夫婦でレッスンされている方もすごく幸せそうで,ああいう夫婦になりたいなって思いました。」

今まで優花姉妹の優先順位はいつもダンスが先だった。教会は好きだけれど天秤にかけるとダンスが少し上。efyはそれを覆した。

「それまでは(教会に対して)軽い気持ちでした。ずっとダンスで世界に行きたいと思っていました。それもいいんですけど,天のお父様のところに帰ったときにはダンスよりもどれだけ信仰が強いかの方が大事かなという感じで。わたしの気持ちもダンスとかよりモルモン書を読んだりする時間を取れたらいいなと思うようになりました。ダンスできる時間が1時間半って決められたら,その時間だけダンスのことをやって,家に帰ったら宿題もすぐ終わらせて,モルモン書をもっと学べるようにしたいです。」そう言いながら,「そうなんですけど,いつもだらだらするから遅くなるんです。家に帰ってお風呂に入るまでに時間がかかるから」とユースらしい素直な笑顔を見せた。

信仰の基礎

優花姉妹の信仰はefyで芽生えたわけではない。藤井夫妻が子供に恵まれたのは結婚してから10年後のことだ。「お母さんは病気で10年子供ができませんでした。体外受精を20回もやってもだめで。病院の先生にも諦めなさいって言われました。そこでモルモン書を夫婦で読もうって決意して,そこから読み始めました。そしてお祈りして。」優花姉妹は続ける。「お母さんがダンスをしていたときに『今踊っちゃだめ』って感じて,お父さんに言ったんですけど『そんなことはありえない』って言われて。でも先生に『今日は休みます』って言って,お父さん一人がレッスンを受けました。気になって病院に行ったら, (お腹に)わたしがいました。(この話を)ずっと聞かされてきて,すごいなって。その2年後にもう一人自然に生まれました。子宮の状態も大丈夫になったんです。」「それを聞いてうれしいというか(,両親が)お祈りしてくれてわたしが生まれて来れたから,福音に感謝し,忠実でありたいなって思いました。」─母親の証が優花姉妹の信仰の基礎を作っている。さらに「毎日寝る前に家族で必ずモルモン書を読むって決めていて,今もずっと続いています。毎晩,夜11時半くらいから。お父さんの仕事が遅いので,10時半くらいに帰るんですけれど,それからいろいろ準備して,宿題とか終えてから家族で1節ずつ2ページ読みます。」両親の努力が優花姉妹の信仰を育み,efyで花開いた。

福音があることに感謝

福音の優先順位がダンスを上回った優花姉妹の将来の目標は「,ブリガム・ヤング大学ハワイ校に行きたいなって思っています。ダンス(のクラス)がいっぱいあるって聞いたので。平行してやれたらいいな。将来は両親のようにプロになれたらいいです。」

世界に進出することについては「行けたらいいですけど,やっぱり考えたいです。そのときに安息日を守れるか。ダンスで忙しくなるようだったら……。でもそんなに上に行かなくても一所懸命やればいいと思うので。」そして, 「最近思うのは,友達を見ていて,このすごい福音を皆が知ったら,すごく生活が楽しくなるっていうことです。だから伝えたいなぁっていう気持ちがあります。それと福音を知っていることの感謝,両親が教会員であってくれることへの感謝です。宣教師が二人でいろいろな所を回っているんですけれど,なかなか会えないじゃないですか。だからほんとうにわたしが教会員であることに感謝しています。福音を知っているとすごく充実した生活ができるのと,自分が良い選択をすることによって神様が助けてくれることを知っているので,自信が持てる……困ったときほんとうに皆はどうしたらいいかと悩むんですけど,神様を知っているから,こう,気持ちを強く持てるし。教会に毎週行けること,セミナリーに行って毎日福音を学べることがうれしいです。」

優花姉妹は今日も明日もダンスをする。ダンスという賜物を与えてくださった「神様に感謝しています。」そう語りながら優花姉妹は恥ずかしそうにほほえんだ。◆