リアホナ2012年6月号 東北で効果的に続けられる教会の復興支援

東北で効果的に続けられる教会の復興支援

──宮城県で4つの寄贈式典,七ヶ浜町,女川町,北上町十三浜,気仙沼市大谷本吉にて

2012年4月5日,宮城県漁業協同組合七ヶ浜支所に,教会が提供した漁業用砕氷製造機と冷凍・冷蔵庫,荷捌き所が落成し,寄贈式典が行われた。七ヶ浜地区では漁港や繋船場の地盤沈下が激しく,復興が遅れていた。寄贈された設備が完成して初めて競りが行えるようになり,町の復興のシンボルとも言える施設となった。

 4月26日には,宮城県牡鹿郡女川町に,漁業復興支援のための3トンフォークリフト15台が贈られた。女川町漁港では急速に復旧が進み,昨年の水揚げ高は17億円(前年比21%)となった。完全復興に向けて町の士気は高く,さらに増える漁獲量へと対応するための大型フォークリフトが必須であった。

 教会はこれまで,被災地復興のために多種多様な支援活動を行ってきた。それぞれの支援が地域の復興にどう有機的にかかわっているか,南三陸町を例に見てみよう。

 宮城県本吉郡南三陸町はあの日,3階建ての防災庁舎の屋上まで水没する13メートルの津波にのまれた。最後まで防災無線で避難を呼びかけた女性職員が犠牲になったことは全国に広く報道された。佐 藤仁町長自身,この防災庁舎屋上で波にのまれながらも偶然,非常階段をつかんで奇跡的に生還した1人である。町長自身も家族を亡くし,使命感をもって町の復興に取り組んでいる。教会はその復興を促進すべく,町によって描かれたグランドデザインに添って,要所要所に効果的な支援を行っている(下図参照)。

 南三陸町では海岸に面した低地の市街が津波ですべて流された。そこで復興に当たり,居住地区と病院,役所などの公共施設を3か所の高台に移転する。(低地は産業用地や商業・観光地区,緑地や公園として再開発する予定。)それに伴い大量の公営住宅建設が計画されている。そのうち一定の割合で木造住宅を作り,地元の南三陸杉の地産地消で林業・製材業の復興を図る。教会はこの夏,町の地場産業の一つの極である林業支援のために,自走式木材伐採機(ハーベスタ)の寄贈を計画している。杉の伐採には季節があり,9月から始まる伐採期に間に合うよう準備が進められている。

 原木が伐採されると次に製材しなければならない。被災前,地元の低地には製材所があったが壊滅した。その再建の一部を教会が支援している。この製材所では,45℃の低温で2週間にわたって木材を乾燥させる特殊な乾燥設備を導入している。高温乾燥では抜けてしまう木材の油脂成分が残るため,長く香りも残り,虫もつきにくい良材ができる。こうした高付加価値を付けて,南三陸杉ブランドの高級材として市場に出し,地場産業振興の一翼を担おうとしている。

 また昨今では,森の保全が漁業と密接に関係していることが知られるようになった。間伐され,よく手入れされた森には日が差し込むので下草が生え,腐葉土となり栄養が豊かになる。そこに雨水がしみ込み,川となって海に注ぐと,その栄養で植物性プランクトンがよく育ち,海の生物相が豊かになるという。森の状態,川の水質が,養殖の牡蠣やワカメなどの品質や生産高をも大きく左右する。こうして,林業が発展すると,南三陸町の地場産業のもう一つの極である水産業も発展するという構図が描かれる。

 教会は,南三陸町にある宮城県漁協志津川支所の漁業復興に向けて,漁船の航路を示す大型浮標灯4基を寄贈したほか,志津川支所戸倉出張所を再建した。この事務所は木造で,建設は南三陸町森林組合に発注され,地元の登米産の木材が使われた。このように教会は,林業・製材業・漁業を同時に視野に入れた復興支援を行っている。また事務所建設には140人が携わり,雇用を創出した。

 このように,南三陸町の基幹産業である林業と漁業が歩調を揃えて復興することで,雇用が確保され,地元の経済が回り始め,地域全体の復興へとつながっていく。この復興サイクルのエンジンを始動すべく,教会はセルモーターを回すような形で,自立への支援を行っているのである。

 一方,漁業が復興すると,林業における製材所と同様に次の工程として,水産加工業が必要になる。教会は,石巻で全壊の被害を受けた水産加工場へ,製氷・冷凍設備と消毒水生成装置を寄贈した。

 しかし,復興に向けて人手が必要にもかかわらず,こうした業界は,なかなか働き手が集まらないというジレンマを抱える。津波の恐怖を体験したトラウマから海の近くで働くことを敬遠したり,失業保険の給付が災害特例で延長されたことで積極的に働く意志が削がれたりしていると考えられる。教会は,6月から本格稼働する職業支援センターの活動を通じて,そうした求人と求職者のマッチングを支援し,自立を促していく。

 また教会は,石巻専修大学に,被災学生のための奨学金基金を寄付した。そうした縁と,教会が支援する産業の現場の状況とを結びつけて,人手を必要とする場所に大学から研修生を送るインターンシッププログラムの施行を提案している。復興支援と同時に,大学側には実社会の現場で学生を学ばせる機会が得られ,双方にメリットがある。ただ単に学生を働かせるのではなく,教育としての評価基準を設けなければならないなど,インターン先にも満たすべき条件はあるが,有望な企画として検討が続けられている。

 4月26日には,戸倉出張所にほど近い北上町十三浜支所でも贈呈式が行われた。アワビやウニを採るのに使われる箱眼鏡,舟の櫂,水揚げ用のかごなどの漁具と軽自動車1台が贈呈され,その場で組合員に分配された。

 この十三浜支所の運営委員長である佐藤清吾 氏の娘さんが教会員であった縁で,ここには早くから教会の支援が行われてきた。佐藤氏の奥様とお孫さんは眼前で津波にのまれた。そうした中で佐藤氏は,困難な漁業復興に向けて組合員とともに立ち上がるべく,一度は引退した委員長を再び引き受けて今日まで走り続けてきた。贈呈式で,万感の思いを込め,大きく力強い声であいさつした佐藤氏の目には光るものがあった。この日,贈呈された漁具は地元の職人の手になるもので,ここでも雇用が生まれていた。 

翌日の4月27日には,宮城県気仙沼市本吉町の宮城県漁協大谷本吉支所にて港湾設備修繕の落成式と贈呈式が行われた。支援内容は,アワビ密猟監視船とワカメ集荷作業所,漁協事務所,水揚げ用クレーン2か所の修繕。そして定置網用小型漁船1隻,漁獲物運搬用軽トラック3台の寄贈である。今後も夏にかけて,さらに寄贈式が続いていく。◆