リアホナ2012年7月号 世の高まる関心に応える─“渦中の年”の広報活動

世の高まる関心に応える─“渦中の年”の広報活動

2012年4月21日,東京,広尾にある教会の東京サービスセンターを,独立行政法人 国際協力機構(JICA)の関係者一行22人が訪れた。JICAは外務省の外郭団体であり,日本の政府開発援助(ODA)を背景とした技術協力や資金協力で,開発途上国に支援の手を送り続けている。身近なところでは,市民の参加協力による青年海外協力隊やシニア海外ボランティアが知られている。彼らは世界情勢について常に勉強を続けており,来るアメリカ大統領選挙に関連して教会に関心を持ち,見学を希望されてきた。

教会では広報部の担当者が彼らを迎え,3時間にわたって教会の様々な側面をじっくりと紹介した後,東京神殿のロビーに案内した。彼らの関心を特に集めたのは教会の人道支援活動や宣教師制度であった。「宣教師はなぜ2人一組で行動するのか,といった質問が出ました。彼らとしては,教会が,常時5万人以上の宣教師を,言語や社会情勢,治安の状況も様々な世界各地に送り続けていることは驚嘆に値したようです」と広報担当者は語る。

6月13日には,東京大学文学部 宗教学宗教史学科の教員,大学院生,学部生あわせて36人がゼミ旅行の一環として教会を訪れ,同じく広報部から1時間ほどのレクチャーを受けた。彼らは広報部で用意したモルモン書やDVD,報道用資料などを持ち帰り,関心を示していた。

冒頭で触れたように今年は,秋に行われるアメリカ大統領選挙において教会員が有力候補となっていることから,教会への社会的関心が高まっており,日本でもテレビ番組やネットメディア※1などで教会についての報道が比較的多く見られる。

2012年1月にある民放から放映された情報バラエティ番組では,教会について解説するコーナーがあった。おおむね正しい情報が提供されたものの,宣教師はその任地を選ぶことができる,といった小さな誤解もあった。教会広報部や複数の会員が放送直後にテレビ局へ電話やメールをし,正しい情報を伝えた。この放送が行われることを告知した,教会メディアサービス部のフェイスブックの投稿には一般会員から112件ものコメントが寄せられた。その他,NHKのテレビでも2回ほど採り上げられ,新聞でも数多くの報道が出ている。

アメリカの報道記事では昨今,Mormon Moment という言葉がよく使われる。直訳すると「モルモンの時」となり,日本語で「時の人」という表現があるように,今,世間の関心の渦中にあるもの,といったニュアンスの言葉である。教会の外側から突然高まったかに見えるこの関心に,教会はどのように応えていけるのだろうか。

地域広報ディレクターのコナン・P・グレームズ長老は語る。「わたくしたち広報としては,その興味に対応する戦略を一所懸命考えています。メディアとの関係をすごく大切にしていますね。たぶん外部の方は,教会について知りたければインターネットを検索するでしょう。ですからウェブサイトもできるだけ質を上げるように今,努力しています。」

ウェブを通じた発信

かねてから教会は日本語公式ウェブサイトを持っている(www.ldschurch.jp)。このサイトは現在,過渡期にあり,今年のうちには全世界向け教会公式ウェブサイト(www.lds.org)とフォーマットを統一した日本語サイト(www.lds.org/?lang=jpn)へと移行しようとしている。

それに伴い,日本の広報部が運営するウェブページができる。ニュースルームと呼ばれ,現在,英語版で NewsRoom として運営されているページの日本語版だが,記事内容は日本で独自に編集される。このページのサブタイトルに,「公共,ニュースメディアとオピニオンリーダーのために」と記されているとおり,ここは教会員向けのサイトではなく,一般社会に向けて教会のニュースを発信していくサイトとなる。

こうしたウェブサイトは複雑かつ多様な機能や内容を持っている。日本語版は現在も構築中であり,ある程度完成したところで改めて発表されることになる。

ウェブ上の動画でも教会はメッセージを発信している。インターネットの動画サイトであるユーチューブ(YouTube)内にMormon Channel─日本語(モルモンチャンネル)というサイト(www.youtube.com/user/MormonMessagesJPN)があり,そこには日本語吹き替えがなされた教会の映像作品が集められている。中でも「モルモンメッセージ─日本語」というプレイリストに集められた作品群は,教会員にとって霊感を受けられる作品であることはもちろん,一般の人が見ても福音の良いメッセージを受け取れるように配慮されている。

英語版のサイトにはそうしたリソースが膨大にある。その中から,日本文化や日本社会に合ったメッセージが選ばれ,順次,日本語版が制作されている。

こうして,日本語で活用できる動画や記事が数多く準備されつつある。しかし,だれかが紹介しなくては,一般のインターネット利用者は教会のサイトになかなか到達しない。会員に奨励されているのは,そうした情報をインターネット上で発信することである。と言っても,そう難しいことが求められているわけではない。今日では多くの教会員が,フェイスブックやツイッター,スカイプといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に参加している。彼らは,インターネット上で日常的に近況を報告したり,何かについて意見や感想を述べたり,日記(ブログ)を書いたりしている。そんなとき,例えば自らの関心を引いたモルモンチャンネルの動画について,あるいは共感した総大会での中央幹部のお話の一節について等々,生活実感に裏打ちされた自然な言葉で発信するのである。気に入った教会制作の動画やウェブページをSNSにリンクを張って紹介したり,「いいね!」(like,good)ボタンを押して支持を表明したりすることもできる。一人一人の声は小さくとも,多くの教会員がインターネット上で発言することで,教会と教会員の生活について広く正しい情報を提供することができる。もしも,あなたのSNS上の友達やフォロワーに教会員でない人がたくさん含まれていれば,教会についての情報が世の中に広く流れていくことになる。

こうした情報発信は,直接には伝道を目的としない広報活動でありながら,同時に伝道活動の領域にも足を踏み入れつつある。広報活動と伝道活動の違いは何だろうか。よくたとえられるのは,広報は畑起こしや種まきであり,伝道は刈り入れであるということだ。しかしインターネットの世界では,両者の境界は時に交差する。

デジタル・ミッション

十二使徒のM・ラッセル・バラード長老はかつてこう語った。「福音を伝え,回復のメッセージを簡潔で分かりやすい言葉を使って説明できるよう,インターネット上の会話ややり取りに参加してもらえますか。」※2 ─この6月下旬,デジタル・ミッションと題するファイヤサイドが,17日に東京,20日には大阪,その後名古屋で行われた。6月19日には東京神殿別館にて,希望者に技術的なトレーニングが行われた。

このファイヤサイドでは,アメリカから来日したジョナサン・ジョンソン兄弟が講師を務めた。ジョンソン兄弟は,教会の公式な召しではないが,インターネットを通して教会を自主的に支援する事業団の代表を務めている。彼は,ガリラヤ湖に網を打っていた漁師のペテロをイエス・キリストが,「人間をとる漁師」※3として使徒に召したことを踏まえてこう述べた。「まったく同様に,わたしたちには新しい網,インターネットというものがあって,真理を求めている人を集めることができます。」このように,(先に紹介した広報活動と重なる部分はあるものの)こちらはミッションと名が付くとおり伝道活動である。ネットを通じて証を分ちあったり,疑問に答えたりする。

ジョンソン兄弟は,十二使徒のクエンティン・L・クック長老の言葉を紹介した。「今日において,わたしたちの教義についてもっと知りたいと思っている人たちは多くいますが,彼らはプライバシーの侵害を懸念しています。彼らは自身の好きなときに好きな方法によって調べてみたいと考えているのです。プレッシャーを感じたくはないのです。インターネットとそれが与えるプライバシーは,人々が調べようとするうえで非常に良い方法だと感じます。」

「あなたがたは神に仕えたいと望むならば,その業に召されている」(教義と聖約4:3)とあるように,奉仕を望むなら人は召されている,とジョンソン兄弟は言う。

「『デジタル・ミッション』は召しを受ける必要のない召しです」と,地域会長会のマイケル・T・リングウッド会長も同ファイヤサイドで語った。「あなたがたは全世界に出て行きなさい。また,あなたがたはどこでも自分の行けない所に証を送り,それがあなたがたから全世界のすべての造られたものに伝わるようにしなさい。」(教義と聖約84:62)リングウッド会長は上の聖句を引用し,こう続ける。「この聖句をわたしは長年,十二使徒や中央幹部の行けない所に宣教師を送るという意味だと考えていました。けれども,この言葉にはもっと意義があるということが分かり始めました。わたしたちはインターネットを通してどこにでも,行くことのできない所へさえ福音を送ることができます。わたしは,北朝鮮に住むある男性とインターネットを通じ,この教会について2時間にわたって話し合いました。彼が知っている情報のほとんどはインターネットから得たものでした。インターネットは,中国,キューバなど宣教師が行けない国々にさえ福音を伝える道具となります。預言者の言葉や証を送る手伝いをするのがわたしたちの義務です。」

地域社会への贈り物─ヘルピングハンズ英会話

一方,今年の教会のもう一つの大きな変化は,これまで伝道活動として,ユニットの伝道主任と宣教師で運営されてきた無料英会話が,広報部の活動に移管されるということである。「3月ごろ,地域会長会のリングウッド会長が霊感を受けました」とグレームズ長老は話す。「彼の言葉によると,英会話は 'The gift to the community',地域社会への贈り物です。純粋な奉仕活動ですから,これはヘルピングハンズ英会話という名称になります。」この意味するところは,英会話を通じて伝道活動を行わないということである。グレームズ長老はこう解説する。

「わたくしたちの第一に重視していることは,英会話の質を高めること。そして参加する人に良い経験をしてもらうことです。これまで,英会話に100人の参加者がいるとしたら,その中で福音に関心を示した1人に焦点を当てていました。これからは他の99人に焦点を当てます。質が良くて人が来て,そこに良い経験があって効果的な英会話を学んで,宣教師や会員たちとも良い関係を作れば,そこに来る人々は教会に親しみを感じてくれるでしょう。参加者の99パーセントの印象が良ければ,教会に対するイメージも向上します。」

カリキュラムは全国統一となり,同じテキストが同じ進度で進むので,例えば東京の英会話に通っている人が,出張で大阪に行き,大阪の教会の英会話に出席したとしてもそのまま学び続けることができる。地域英会話コーディネーターのデレック・L・ウェスマン兄弟はこう話す。「人が気持ち良く帰っていける英会話を目指しています。災害支援以外の分野でも純粋な奉仕としてのヘルピングハンズ活動が全国に展開されることを望みますね。」ウェスマン兄弟は教育効果が上がるようカリキュラムを監修するほか,伝道部を通じて宣教師に教授法のトレーニングも行う。英会話教室の運営は,伝道活動から広報活動への移管を示すように,伝道主任ではなく,ビショップ/支部会長によって任命される新たな召し,「英会話コーディネーター」が行うようになる。これを近い将来に日本と韓国で全国展開できるよう準備が進められている。

ヘルピングハンズと広報活動

グレームズ長老ご夫妻は東日本大震災の直後から被災地へ赴き,緊急支援・復興支援活動に携わってきた。ご夫妻はかつて仙台伝道部会長夫妻を務めたので,親しい会員が現地に多くいた。それらの会員とつながりのある被災地の方々を紹介され, 「普通の広報活動とはちょっと違うことですけど,支援物資を持って行くことができました。そこから関係ができて,わたしたちは数多くの漁協に援助させていただけるようになりました。(当時,広報宣教師であった)新山靖雄長老も,国会議員の方を通じて県庁の方を紹介されて,そこで義援金を寄付したりしました。いろいろな関係ができたんですね。わたしたち, (被災した)3つの県の県庁の方々を知っています。日本赤十字社との関係もできましたし,県会議員の方との関係も作りました。たくさんの市長,町村長,( 漁協の)組合長と関係ができました。これは全部,伝道と全然関係なく,福祉部と広報部が一緒になって,ヘルピングハンズの活動としてやってきたからできたことです。福祉部の良い働きを通して広報関係のすごく良い仕事ができました。御存じのようにヘルピングハンズのTシャツとジャケットは東北ではよく知られていますね。」

見返りを求めず純粋に教会が行った奉仕は,期せずして,広報の大きな成果をもたらした。そうした意味合いで,ヘルピングハンズ英会話もまた,地域の方々に喜ばれる奉仕に徹するほど,教会の実際の姿を社会に浸透させ,かえって主の業に道を備えることになるのかもしれない。

モルモン・モーメント

グレームズ長老は結びにこう語った。「これから,(大統領選の行われる)11月まではモルモン・モーメント,教会のことが話題になりますね。教会についていろいろ聞かれても答えられるように,すべての教会員に準備していただきたいと思います。教会は政治的に中立なので候補者について話すことはできないけれども。(笑)

わたくしはこの機会に,あっ,モルモンというのはこういうことだな,というのを日本の皆さんに伝えたいと思っています。すなわち─『家族,健康,教育,貢献,道徳,キリスト』,これがモルモンだ,と。

ある意味で,『モルモン・モーメント』は大きなチャレンジです。教会について良いことも悪いことも誤解されたことも語られるでしょう。しかし同時に大きな機会となるのです。」◆