リアホナ2012年4月号 “テーゲー”に楽しむ,島の子育て

“テーゲー”に楽しむ,島の子育て

 ─那覇ステーク那覇東ワード 與座ご家族

與座宏章兄弟は,沖縄尚学高等学校と附属中学校の筆頭教頭を務めている。沖縄尚学は,2度甲子園で優勝している野球部をはじめとするスポーツの強豪校であり,また文武両面での名門校として知られる。一昨年のブリガム・ヤング大学ハワイ校 全国高校生英語スピーチコンテストでは,全国本選の優勝者を輩出している。ちなみに昨年のスピーチコンテスト沖縄地区予選では,與座家の二女で,沖縄尚学高校2年のななみ姉妹が優勝した。

帰還宣教師で大学生である與座家の長男,謙一兄弟は,ウェイトリフティングと空手をやっていたほか,工業高校時代はボクシング部に所属していた。試合前は10kg以上もの減量に耐えなければならない本格的な部活で,「減量はかなりきつかったですね」と振り返る。しかし入部のときから日曜日の練習には参加しないと宣言していた。減量の苦しさに比べるとそんなことは何でもなかったらしい。

現在,実家を離れ,名古屋の看護学校に通っている長女のあゆみ姉妹は,高校時代,野球部で活躍した。男子に伍して同じ練習メニューをこなす。あるときバッターボックスに立っていて,エースピッチャーの豪速球を顔面へまともに受け,歯が折れ飛び,8針を縫う怪我を負った。しかし,腫れ上がった顔でけろっとしてセミナリーに出席していたという。

二男の正章兄弟は沖縄尚学高校出身,トップレベルの進学クラスに在籍して,勉強漬けのハードな高校生活を送った。一浪してこの春,東京大学の理科一類に合格する。セミナリーについては在学中,当然のように通い続けた。ピアノを弾くのが好き。

二女のななみ姉妹は中学時代ソフトボール部で,高校では兄の正章兄弟と同様,最も高いレベルの東大・国公立大医学科コースにいる。セミナリー期間中は朝5時に起床,父親か母親の送り迎えで那覇東ワードのセミナリーに出席し,その後,出勤する父親と一緒に登校する。学校では部活の後,(学生寮が併設されているため)夜中まで開いている高校の自習室で遅くまで学習し,親の迎えで夜10時ごろ帰宅,食事してすぐ就寝……そんな多忙な日常を送っている。

末っ子のいずみ姉妹は中学3年,セミナリーは1年目を終えた。中学のソフトボール部では4番バッターとして県選抜大会に出場,主力選手として活躍した。

数々の武勇伝を聞かされた後,「さて,セミナリーは……」と水を向けると,ななみ姉妹は「行くものと決まっているので,生活の一部です。学校に行くのと同じです」と,こともなげに答える。それぞれにハードな日常の中で,セミナリーは相対的に大変というよりは,楽しい時間となっているようだ。

5人の子供たちは皆,頑健で,学校はほぼ皆勤。與座家では37度5分以下の熱であれば登校する習いになっている……こう書き連ねると,教頭先生の與座兄弟のもと,よほどのスパルタ教育がなされていると思うかもしれないが,実態はまるで違う。

たった2か条の教育方針

ご両親の子供に対する方針は極めてシンプルである。

その①,福音は第一優先だよ。

その②,楽しく生きる。楽しいと思ったことはどんどんやりなさい。ただし,自分の意志で始めたことは簡単にやめてはいけない。─それだけだ。

ななみ姉妹が昨年,ハイスクールマンザイ2011の地元予選※に出場したとき,母親の孝子姉妹は率先して応援に行った。子供たちは自分で選んだ「楽しいこと」と,それに伴うチャレンジに自分で挑んでいる。「教会も,楽しくなければ絶対,続きませんからね」と孝子姉妹は言う。親からこうしなさい,こうありなさいと,こと細かに言われたことはないという。

難関校の受験に臨んだ正章兄弟に,セミナリーと勉強の両立は大変ではなかったかを聞くと,「逆に,セミナリー休んだら落ちると思っていました」とあっさり。今までの経験上,日曜日に模試などで教会を休んだときはかえって成績が下がったのだという。─「子供たちには耳にたこができるほど言っていることですが」と與座兄弟は言う。「セミナリーに行き,教会に行き,戒めを守ることによって,スポーツにしろ勉強にしろほかの人と同じくらい一所懸命にするときに,主の守り,という,教会員以外の友達はだれも受けられない祝福を受けるチャンスがある,と。」

子供たちはうなずいている。「おじいちゃんにそういう聖句を分かち合われたことがある」と正章兄弟は言う。

ぶれないけれど,ゆるい

安息日についても,與座家では日曜日の活動が何が何でも全部だめ,とは言わない。「全然,うちはゆるいので,模範的ではないですよ……」と母親の孝子姉妹は言うが,與座兄弟は珍しく強く言う。(ちなみに,與座ご夫妻が子供の前でけんかをしたことはこれまで一度もない。)「そうじゃない。大会は,これはもう団体競技でもあるからやむを得ない。ただし,普通の部活動の練習とか,要するに調整すれば何とかなるものに関しては,主を第一として,安息日の戒めを守りなさい,と。」

これが與座家のぶれない筋の通し方である。それは與座兄弟の職業的経験から来ている。「わたし自身,そういう仕事じゃないですか。学校行事って日曜日に入ることが多いんですね。教員ですから当然,若いころは部活動の顧問とか持たないといけないし,教会に行きたくても行けないときが出てくるんですけど,たとえやむを得ず行けなくても,主を第一にするのは絶対に忘れない,と。子供たちにもそうしてほしいし。」

冒頭に記したように,長男の謙一兄弟はボクシング部入部の際,自分から最初に,「日曜は練習に来られないんですけど,それでも入部できますか?」と断っている。性格的におとなしい長女のあゆみ姉妹は中学時代,テニス部のコーチに話すに当たって父親について来てもらったという。「一緒にテニスコートまで行って,いや,この子は教会に行ってるので,試合の際にはチームプレイですから優先しますけど, 平素の練習のときには教会を優先させてほしいんですけど,って話をしたら,コーチが,早く言えば最初から許可したのに,って。」ほら,とばかりに「簡単だよ」と言う謙一兄弟。ななみ姉妹も自分から部活の顧問に話したというが, 「いや,相当勇気がいるよ,謙ちゃんは鈍感だから。」すかさず與座兄弟が混ぜ返す。「謙一は単純なのよ,単純なのはいいことなのよ(笑)。」

─楽しく生きる,が基本の與座家の食卓は笑いが絶えない。「ユーモアのセンスは絶対忘れないようにね。」與座兄弟が連発する親父ギャグは時に呆れられ,時に受ける。……「お母さんだけ笑ってたりする」「だいたいそう(笑)。」

テーゲー─絶妙のバランス

「沖縄の方言にはテーゲー,という言葉があります」と與座兄弟は話す。大概,が語源の琉球語で,何事も突き詰めるのではなく適当に程々に,ゆるくやる,といったニュアンスの言葉だ。「どんなに一所懸命子供を教育しても,教会に熱心に通う子もいれば,行かなくなる子もいますよね。うちの子は幸い,ずっと行き続けてるんですが,どうしてだろうな,と思ったとき,まあテーゲー,っていう,信念はしっかり持ちながら,どこかいい加減……って言ったら変ですけど,ゆるい部分,子供たちの意志に任せるような部分もあったからかなあ,と思います。そういう,子供たちへのチャレンジの強い部分とゆるめる部分とのバランスが良かったのでしょうか?」

與座兄弟自身も振り返れば,第一世代の両親から,伝道に行きなさいとは一言も言われなかったという。友達と指導者の影響で伝道に行くと自分で決めた。

そして第三世代の謙一兄弟も,親から伝道に行くよう言われたことはない。謙一兄弟は, 「やっぱり教会の友達の影響がいちばん大きかった。先輩が伝道に行ってきて証してくれて,いいな,自分も出よう,と。彼らの友情と信仰によって自分自身も強められたかな」と振り返る。

信頼関係は一日にしてならず

沖縄では公共交通機関が発達していないこともあって,親が子供を車で送り迎えするのは教会員であるなしを問わず,生活の前提となっている。與座家からセミナリーの行われる那覇東ワードまでもバスでは行けない。そんな送り迎えのときが親子のコミュニケーションの時間となる。と言ってもほとんどは趣味の話,学校の話,子供の友人の話……與座家はオープンな家庭で,子供たちの友人,與座兄弟の教え子などをしばしば食事に呼ぶ。時に泊まって行ったりもする。子供たちの友人のことを両親も知っているので話題が広がる。正章兄弟とななみ姉妹は特に,與座兄弟と同じ沖縄尚学高校なので話題は尽きない。

「教会以外の話が実は中心なんですよ。主を第一とするということで,これは決してぶれちゃいけないんですが,逆に,生活のスタイルから会話からすべてがそこに集約されてたら,たぶん子供たちはあっぷあっぷしてたのかな,と思うんです。

バランス,と申し上げましたが,子供たちと普段の日常会話を共有できるような生活をすることと,肝心なところで─これ,いつもいつも言ってたらあんまり効果はないので─主の戒め,福音の原則の部分をぐっと言うこと。

わたしも少年野球をやっていたので,娘のスイングを見て,ここ,こうしたらいいよとか……別にそれは子供との関係を良くしようと思ってやったわけじゃないんですが,考えてみたらそういった会話をしながら親子の関係ってできていくし。親子の信頼関係が最低限あれば,セミナリーにしろ教会にしろアドバイスをすれば,子供たちは聞いてくれる。ああ,心に響いているなというのは話してると分かりますから。

さっきテーゲーって言ったのはその辺なんですよ。常に100点を目指すのじゃなくて,ある程度できていればよし,次の段階に行こう,と。」

與座ご夫妻は,子供たちの人生全体を大きな構図で見ている。「子供たち全員が100点じゃない,足りないところもあります。ただ,何かあっても,セミナリーや教会や教会員の友達と,子供たち,そのつながりが切れるということは,今の5人を見ていると,ないなあ,と。」子供たちの全体像が信頼できる状態にあるので,與座家には門限がない。正章兄弟は言う,「友達の話を聞いていると,うちってけっこうゆるいんだなあ,って。」普段から子供たちと信頼関係を築き,信頼をベースにゆるくする,それが與座家流“テーゲー”なのかもしれない。

ちなみに,口に出して言わないからといって,與座ご夫妻が子供たちの伝道を望んでいないわけでは決してない。與座兄弟は述懐する。「結婚したとき,自分の子供が伝道に行く日ってどれくらい幸せだろう,って思っていて。それが実現したときはほんとうにうれしかったんですね。子供たちがセミナリーを終えて,やがて長男にならって伝道に行く子も出てくるでしょう。やがて家庭を持つ子たちも……それが両親にとっては一所懸命頑張れる原動力であり,いちばん大きな楽しみですね。」◆