リアホナ2011年4月号 先輩からの手紙

先輩からの手紙 

◉井上香織姉妹/さいたまステーク浦和ワード

自らを「あまり人の目を気にしない,マイペースな性格」と評する。2世の教会員だが,ご両親も教会の指導者も井上姉妹の選択を温かい目で見守ってくれたので,自分のペースで証をはぐくんでこられた,と感謝する。手にしている手帳は就職活動中から使っていたもの。就職が内定した昨年11月のスケジュール表は真っ黒になるほどの予定で埋まっていた。efyではチェックインとファイヤサイド,グループディスカッション活動などのプログラムを担当している。

世間では“就職氷河期”と言われて久しい。長引く不況の影響で雇用は冷え込み,大学生は3回生の秋から就職活動を始めるのが一般的である。井上香織姉妹は2010年2月に福岡伝道部から帰還し,4月から大学の4回生に復学するとともに就職活動を始めた。「4月からでは遅いこともあって,まあマイペースでやろうかな,とけっこうのんびりやってたんですけど。」普通の学生なら焦る局面でも,井上姉妹に動揺の色はなかった。それでも状況は簡単ではない。人気企業の説明会はすぐに予約がいっぱいになる。学生はインターネットで企業を探し,そのウェブサイトから「エントリーシート」と呼ばれる応募書類をプリントして記入し企業に送る。書類審査を通って初めて面接にこぎ着けることができる。井上姉妹は月に2社ほどの面接を受け続けるも内定を得られないまま秋を迎えた。

10月に入り, 井上姉妹はefyのビルディングカウンセラー※に召された。efyに参加するということは,新入社員の立場で夏に1週間もの休暇をもらえる就職先を見つけなければならず,さらにハードルが高くなることを意味する。任命の按手をするときステーク会長は, 「それで落とされることもあるかもしれないし,何十社も受けなければならないかもしれないけど,それでも頑張って」と井上姉妹にチャレンジした。そして任命の按手のとき, (就職先が)「ちゃんと見つかるように」と祝福してくれたのだった。

「ずっと続けていた祈りの中で,あ,大丈夫だな,という平安を感じていて。やっぱり,御心の所にちゃんと決まるだろうという確信があって。(同期生は)けっこう必死になって,やばい,大変だ,年内に決めたい,って皆焦っているけれど,それに呑まれることなく,ほんとうに主を信頼してちゃんと進んで行けば結果的には大丈夫になる,って思っていましたね。今までの経験と伝道中の経験もありますし。」これほど井上姉妹に迷いがないのには理由がある。

小さなことから大きなことが

井上姉妹は中学生のときバレー部に入っていた。「部活のないときに教会に行く,っていう感じで,優先順位は部活の方が上だったんです。」それでも,若い女性の指導者や先輩が毎週,手紙や連絡をくれた。「今日,こういうのやったよ,今度この活動があるからね,みたいなのはずっと続けてくれていて。小さいことかもしれないけど,そういう小さなつながりがあったから─」高校に入学したとき井上姉妹は,ある小さな選択をすることになる。

「もう高校では部活をしないで日曜日にちゃんと教会に行こう,と。教会が楽しい所,とか大切なんだな,と何となく分かってきたので。部活にまた入ったらだんだん(教会に)行かなくなっちゃうんだろうな,って予感がして……そのときはあまり大きな選択とは思わなかったんですけど。」

セミナリーにも本腰を入れるようになり,そこから井上姉妹は少しずつ変わっていった。「それがなかったら伝道に出ることもなかった。(すべての選択は)つながっていると思います。」

迷いから確信へ

大学に入ってからは,それまでとは違う幅広い価値観を持つ学友たちと出会った。「自分の信仰について,何でこんなにたくさん宗教がある中でこの教会なんだろう,と疑問がわき上がってきて。友達にいろいろな生き方があって,みんなそれぞれ幸せそうに見えるんですよね。わたしもみんなに幸せになってほしいと思うし,それならそれぞれの方法で幸せになったらそれでもいいのかな? いちばんの幸せになる道って何だろう,と自分の中で深く考えるようになりました。」

3回生になってからは非常に多忙なゼミに登録し,ゼミ班のリーダーとして活躍した。研究のため大学に朝出かけて終電で帰るような日々を重ねるうち,霊的な面でも余裕が失われていった。そうして秋を迎え,学友たちが就職活動を始めるころ,井上姉妹は人生の分かれ道に立っていた。「就職活動か,伝道か,あと留学もちょっとしたいなと思っていて,ずっと悩んでいました。そのときは信仰がまだまだ回復状態になっていなかったんです。教会がほんとうに真実で,周りにいる一人一人にとってほんとうに幸せになる道なら,それが自分で確信できるなら,伝道に行こうと思っていました。」

4回生に進級するかどうかの瀬戸際であった2008年3月の第1日曜日。追いつめられた井上姉妹は真剣に断食し,何を選べばいいのか主に問いかける。すると─「聖餐会の時間に普通に礼拝堂に座ったとき, 『あ,わたし伝道に行くんだ』というすごく分かりやすくてすっきりした気持ちが心に来たんですね。その瞬間から全然,就職とか留学のことが頭に浮かばなくなって。」もう迷いはなかった。その晩,ビショップに「伝道に行きます」と伝えた。

それからわずかな時間で,宣教師として語るべきたくさんの証が「怒濤のように」次々と得られたという。「いちばん自分でびっくりしたのは,ジョセフ・スミスについての証でした。それまでも知ってたし,疑う気持ちもなかったんですけど,もう1回やっぱり祈って確かめようと思って。」─すぐに答えが来たわけではない。祈り続けていたある朝,埼京線に乗って新宿へ向かった。独り窓際に立って外を眺めながら,ジョセフ・スミスの見神についてふと考えていた。(その様子を)「想像していたら,何かすごく神聖な気持ちになって,立ちながら自然と,涙が出てきたんですね。あ,ほんとうにこうやって(御父と御子とジョセフが)人と人とが会うように会ったんだ,福音が回復されたのはほんとうに大きなことなんだ,と分かって。」それは圧倒されるように確かな思いだった。「びっくりしました。もう忘れることはできないです。」

すべての選択はつながっている

こうして井上姉妹は確信をもって伝道に行き,確信をもって帰還して,確信をもって就職活動に臨んだ。「全部がつながっているんだな,って今は思います。伝道前の経験は伝道のために,伝道の経験は,今のefyの準備のために必要だったんだ,と。一つ一つの経験とか知識に,後から来るいろいろな目的がある。その目的は決して一つだけじゃなく,やがては永遠の目的に全部つながっていく,と。」

井上姉妹は自身の青少年時代を振り返り,efyが,永遠を左右する経験と選択の第一歩になる,と語る。「1週間の間に,自分と同年代の仲間と同じことを感じて,その中で証を見つけて。そういう一つ一つはほんとうに小さいことかもしれないけれど,それが永遠につながっている。永遠に変わるチャンスなんだな,と思います。efyは人生の凝縮版です。わたしの今までの経験が,1週間にぎゅっ,って詰まっています(笑)。」

2010年11月16日,井上姉妹は内定を得た。書いたエントリーシートは30社に達していた。「でも全然少ない方だと思います。ほかの人は100社近く,普通に受けていますね。」翌12月,内定者を集めて研修が行われた。その帰り際。「ちょっとお話があるんですけど……」井上姉妹は上司に話しかけた。efyについて説明し,新卒の身で申し訳ないが,準備のために夏までは週に1回定時で退社したいこと,また夏に1週間の休暇を取りたいことを率直に願い出た。─「快く,って感じではなかったですけど,まあ,しょうがないよね,と承諾してもらえて。会社を出たらすごく気持ちが軽くなりました。ああ,よかったあ! って。」◆