リアホナ2008年9月号 イスラエル通信3

イスラエル通信3

現代イスラエルの祭りイスラエルにおける祭りはユダヤ暦に基づいて行われる。国際社会でおもに使用される西暦はキリスト教に由来するものであり,ユダヤ教徒は,(日常生活では西暦も使うが)公式な行事はすべてユダヤ暦によって実施する。西暦の9月がユダヤ人の新年に当たり,年間を通じて様々な祭りが開催される。日本の祭りとの大きな違いは,自分たちが行っている祭りの意味や由来をだれもが理解していることだろう。(日本人の中で,古来の祭りの由来や日本神話や歴史上の出来事を説明できる人はごく一部ではないだろうか。)旧約聖書のエピソードや戒めに由来するものであれ,ユダヤ民族の歴史上の記念日を祝うものであれ,祭りを通じてその意味が再確認される。と同時に,子供たちへの教育にもなっている。ユダヤ人が祭りを祝う様子は,堅固な家庭教育と宗教教育のあるべき姿を感じさせてくれる。

プリム

プリムは旧約聖書エステル記の物語に由来する祭りである。ユダヤ暦のアダル月(2-3月ごろ)の14日を祝日とし,今でもエステル記の出来事が記念されている(エステル記9章19-28節参照)。今日こんにちのプリムはイスラエルにとってハロウィンのような祭りとなっており,職場などで仮装をしてもとがめられない日である。

紀元前5世紀にユダヤ民族は捕らえられ,バビロンへ移された。バビロンはやがてペルシャに征服され,ユダヤ人の多くはそのままバビロンに残り異国の支配下で暮らすことを余儀なくされる。その中に,モルデカイとその姪のエステルもいた。やがてエステルはアハシュエロス王の寵愛を受け,王妃となった。

ペルシャ帝国に仕えていたハマンは,ユダヤ人のモルデカイが自分にひざまずいて敬礼しないことから,モルデカイだけではなくすべてのユダヤ人を殺すよう謀略をめぐらせる。そのとき,ユダヤ民族を絶滅の危機から救ったのが王妃エステルの智恵であった。その奇跡的な出来事をプリムでは祝う。ハマンがユダヤ人を滅亡させる日をプル(くじ)によって決めたことが語源となりプリムと呼ばれている。

エステルはユダヤ人であることを隠して王宮に入り王妃となった。育ての親であるモルデカイから,自分の民や同族のことを人に知らせないように命じられたのである。エステルが自分の正体を隠したことが由来となって,プリムで仮装をする習慣が生まれたという。プリムはユダヤ人にとって楽しい祭りであり,子どもたちはさまざまな衣装を付けてシナゴーグに行く。(シナゴーグとはユダヤ教の会堂であり,礼拝や文化行事などを行うコミュニティーの中心的な場。機能としては教会の集会所やステークセンターに似ている。)

プリムの日には,エステル記の巻物が朗読される。朗読の中で「ハマン」という名が読み上げられるたび,それを聞く人たちは机をたたいたり,足を踏み鳴らし,時には声を上げて,「ハマン」の名前が消し去られて聞き取れないようにする。またプリムの夕べには盛大な祝宴が催されるが,エステルが都に住むユダヤ人に断食を呼びかけたこともあり,敬虔なユダヤ人は今日もプリムの前日には断食をする。

ペサハ(過越 し)

おもに4月に行われ,日本語では過越しの祭りと呼ばれている。モーセによるエジプトからの脱出を祝うユダヤの伝統的祭りである。イスラエルの三大祭(ペサハ,七週の祭り,仮庵祭)に数えられ,毎年春のペサハの時期は官庁,学校,会社などが1週間ほど休みになる。ユダヤ人の子供たちは出エジプト記の物語を覚え,それによって,神様が先祖を苦難から救い出され自分たちも救われているという信仰をはぐくんでいく。民族の歴史と伝統が伝承される祭りである。

ペサハはおもに家族で祝う。家族全員が集まって象徴的な食材(ペサハ=犠牲の子羊,マッツァ=種入れぬパン,マロール=苦菜,など)による食事を囲みながら過ごすが,大切な友人を招待することも伝統となっている。イエス・キリストが弟子たちとともに最後の晩餐を過ごしたのはこのペサハのときであった。

シムハット・トーラー

ユダヤ暦の新年ティシュレー月(9-10月ごろ)に行われるスコット(仮庵の祭り)の第8日目には「シムハット・トーラー」(律法祭)という祭りが行われる。神から授かったトーラー(旧約聖書のモーセ五書)に感謝し,毎週土曜日の安息日にシナゴーグで何章かずつ読み,1年かけて読了したことを祝う日である。ヘブライ語でシムハット・トーラーとは,「トーラーを喜ぶ」という意味がある。イスラエルの新年の大型連休の最後の祝日に当たり,シムハット・トーラーが終わると社会も平常の体制に戻っていく。

ユダヤ人は1年かけてトーラーの巻物を読むが,週ごとに読むところが定められており,世界中のユダヤ人は共通の章を読み進め,シムハット・トーラーの日に申命記33-34章を読み終える。そして,再び創世記から読み始める。トーラーを読み終えたユダヤ人は,大きな巻き物になったトーラーを掲げて,感謝と喜びに満たされるのである。

ハヌカ(宮清め)

ハヌカは12月に行われるイスラエルの祭りで,紀元前165年にユダヤ人がギリシャ人に勝利したことを記念している。戦いの後,ギリシャの神に汚されていたエルサレムの神殿を奪還し,これを清めて奉献した。ヘブライ語で「ハヌカ」とは,「宮を清めて奉献すること」を意味する。ユダヤ人の祭のほとんどは旧約聖書に登場する物語に基づいているが,ハヌカは旧約聖書に基づいた祭りではない。しかしイエス・キリストの時代にはすでに伝統的に行われていた。「そのころ,エルサレムで宮きよめの祭が行われた。時は冬であった。」(ヨハネによる福音書10章22節)

現在ではハヌカの期間には,マヌキヤと呼ばれる8つの枝のある燭台に毎日1つずつ火を灯し,なにかしら油を使用した料理を食べる。それは,宮清めの際,神殿内の燭台の油が1日分しかなかったにもかかわらず,8日間灯が消えなかったという伝説に由来している。したがって祭りは8日間かけて行われることになる。時期的にはクリスマスと近く,クリスマスの習慣の影響もあって,近年,アメリカのユダヤ人コミュニティーなどではプレゼントを交換する習慣も定着している。◆