リアホナ2007年3月号 東京ステーク中野ワードの伝統 先輩が目標達成する勇姿を見て後に続く

東京ステーク中野ワードの伝統 先輩が目標達成する勇姿を見て後に続く青少年が育つ

中野ワードの青少年と指導者の朝は早い。他の多くのワードで実施しているように中野ワードでは早朝セミナリーに青少年が集い,そこで聖典を学習する。6時から始まるセミナリーは,他のワードや支部で実施されているものと変わりはない。教会まで車で送り届ける家族,遠方から自転車で通う生徒。セミナリーに集う生徒の背景は様々だが,一様に眠そうな顔で集うのは全国共通かもしれない。生徒たちは中学や高校の部活に所属したり,朝の練習に参加したり,学校の課題に多忙であったりと状況は多様だ。しかし,セミナリーのクラスは淡々と毎日続けられる。セミナリー終了と同時に部活の朝の練習や学校に向かう生徒もいる。しかし,中間試験や学期末試験の最中でも早朝セミナリーが中止されることはない。「試験期間中でもセミナリーがあるのは分かっているので,それに向けて準備している」と子供たちは話す。中野ワードの早朝セミナリーではそれが当然のように続けられてきた。

この早朝セミナリーが伝統となりつつある中野ワードで,今年の1月にユニークな活動が行われた。それはワードの会員と今年からセミナリーで学ぶ青少年と家族を招いての卒業式だった。以前からワードの会員を交えた企画はセミナリー教師によって発案されてきた。生徒たちが聖句を正しく暗唱できているかワードの会員に確認してもらう試みも行われた。そのために,ワードの会員も目標を立てて聖句を暗記することに挑戦したこともある。

生徒たちの中ではセミナリーの25の聖句を暗唱するのが当然の課題として,伝統となりつつある。今年卒業した4人の生徒は,「教義と聖約」,「旧約聖書」,「新約聖書」,「モルモン書」の各聖典の中から聖句を25ずつ,合計100の聖句を暗唱してきた。その集大成をワードの会員に披露するための卒業式が新たな試みとして1月27日に開催された。

礼拝堂で開会された卒業式では,一人一人がビショップから表彰される。セミナリーの対象ではない青少年も含めて,若い男性と女性の会員は安息日と同じ服装で出席した。卒業式の後は礼拝堂からホールへ移動し,4年間学んできた成果がセミナリー教師から報告された。そして,集った会員の前で「教義と聖約」から順に始まり「モルモン書」まで,100の聖句が卒業生によって暗唱され始めた。暗唱する聖句はスクリーンに投影され,出席者はその言葉を一つ一つ目で追いかける。教師と一対一で向かい合った生徒は,クラスで行っているように,指定された場所の聖句にとっさに反応し,目を閉じながら黙々と暗唱する。静まった会場に生徒の声だけが延々と読経のように響く。最後の聖句の暗唱が終わると,脱力したように溜息をつく生徒たち。大きな拍手と感嘆,驚きの声で会場が包まれると,生徒たちの顔は笑顔に変わり,急に輝き出す。

100の聖句を言い終えるまでの時間,それをじっと聞き続けるワードの会員や家族。それは見ようによっては,長く退屈なものかもしれない。しかし,ワードとしての新たな取り組みとして,今までにない真摯な趣を感じさせる集会であったことは間違いない。

同時に,この卒業式には今年から早朝セミナリーを学ぶ生徒とその家族も招待されていた。在籍中の子供たちやこれから学ぶ生徒は,この4人の卒業生の取り組んできたことが,自分たちも行うべきものとして自然に受け入れられたことだろう。また,子供たちを新しく早朝セミナリーで学ばせる家族にとっても,その活動と結果を理解する機会となった。今年から子供を早朝セミナリーで学ばせる一人の母親は「ほんとうに感動しました。このような活動であれば,子供たちを安心して早朝セミナリーに送り出せます。この先輩たちと同じように,これから4年間頑張って学んでほしいです」と上気した面持ちで話した。

天候が悪くても,学校の試験があっても,部活の朝の練習があっても,一時的な状況に負けずに調整し,早朝セミナリーで学び続けてきた子供たちの成果がはっきりとわかる瞬間だった。セミナリーで学んできた生徒だけではなく,ワードの指導者,教師,家族にとっても青少年の取り組みを誇らしく感じる瞬間だったに違いない。

皆勤賞の表彰の中でビショップの平良久兄弟は「皆勤賞を受ける生徒がいるということは,もう一人皆勤賞を受ける人がいるということです。毎朝送迎してくれたお父さんも皆勤賞だということです」と生徒の家族への感謝の気持ちを述べた。また,早朝セミナリーが教師と生徒たちだけのものという隔離された印象が中野ワードで薄らいでいった背景には,ビショップやワードの会員が度々ともに集っていたことが挙げられるかもしれない。

卒業した生徒の一人であり,高校1年生で改宗した藤島満兄弟は,高校在学中に4年間のセミナリーを学ぶ期間はなかった。高校2年生から早朝セミナリーに出席した藤島兄弟は,高校を卒業後の昨年にも早朝セミナリーに通い,並行しながらもう一つのコースを学び,無事に4つのコースを終了させることができた。それに加えて,藤島兄弟は他の生徒たちとは少しばかり違う環境に置かれていた。藤島兄弟は長兄の紹介で,もう一人の兄と一緒に改宗した。改宗してから次兄と二人暮しの藤島兄弟は,高校在学中からアルバイトをしながら,兄弟二人で生活してきた。早朝セミナリー,学校,夜遅くまでのアルバイトを続けての生活。そのような環境の中でも藤島兄弟はセミナリーだけではなく,学校でも優秀な成績を収めて卒業する。ビショップをはじめとするワードの会員も様々な形で藤島兄弟を応援してきた。藤島兄弟が青少年としてまじめに信仰生活にかかわる姿は,周囲の人々の心に大きな変化をもたらす模範になった。中野ワードのセミナリーの卒業式が少しばかり早い1月27日に開催されたのには理由がある。それは藤島兄弟が福岡伝道部の宣教師として召され,翌週からJMTCへ行くことが決定していたからだった。

今年から早朝セミナリーで学ぶ生徒と家族は,現在セミナリーで学んでいる生徒の姿に自分たちの将来の姿を重ね合

わせる。現在学んでいる生徒は卒業した生徒に自分たちの将来の姿を重ねる。そして,卒業した生徒は伝道へ赴く藤島兄弟に続く決意が芽生えている。

「来年はワードの会員がもっと出席して,青少年のセミナリーへの取り組みを知ってもらえるように,日曜日の集会後に計画したい」と平良ビショップは集会の最後のあいさつの中で語った。

最初は少人数で始まった中野ワードの早朝セミナリーも,ワードの指導者,教師,家族の熱意によって徐々に良い伝統を築き上げている。早朝セミナリーにかかわった会員も生徒も,弱音を吐いたり,あきらめそうになったことも何度かあったに違いない。青少年の生徒たちが100の聖句を暗唱するまでに成長するとは,だれも予想していなかったかもしれない。4年間教師として責任を果たした橋田芳子姉妹は「これを行うのが私の夢でした」と話す。最初は一人の教師の小さな夢だったかもしれないが,徐々に積み重ねられることで驚くほどの成果が中野ワードの青少年,指導者,教師,家族にもたらされた。2年後に藤島兄弟が伝道から帰還するころには,これからセミナリーで学び始める生徒たちが,さらに後に続く後輩たちにあこがれのまなざしで見つめられていることだろう。◆