ブリガム・ヤング大学ハワイ校(BYUH)主催の「ジャパン・ビジネス・プラン・コンペティション(JBPC)2007」の授賞式が,去る4月6日に東京で行われた。新規事業のアイデアを審査員の前でプレゼンテーションし,その企画案を競うJBPCは2005年から開催されており,今年は藤沢ステーク藤沢ワードの沼田雅義兄弟と娘の香奈美姉妹のチームが優勝した。5人の審査員の前で行ったプレゼンテーションの内容は,「インターネット上でのペット霊園」を中核としたペットのポータルサイトと,動物病院やペットホテルなどへのインターネット予約サービスの提供。親子でのプレゼンテーションは,他の出場者と比較して,内容も雰囲気もほのぼのとしたものだった。そして,審査員の高い評価を受け,見事に優勝者に選ばれた。
応募した動機について沼田兄弟は,「第三者に聞いていただき客観的な評価をしてもらいたいと思いました。また,娘が学校で勉強していることと,わたしが培ってきた技術によりビジネスができればという希望から始まりました」と話す。沼田香奈美姉妹は,ワード宣教師,聖餐会指揮者,扶助協会伴奏者,セミナリー教師と多忙な召しを果たしながら,大学では,情報メディア学科WEBデザインコースに属し,DTP,画像処理,サイト構築を学んでいる。数年前にコンピュータソフトウェアの開発会社を設立した父親の雅義兄弟の影響もあるに違いない。「2度目のビショップ」に召されているという雅義兄弟も,教会での奉仕に多くの時間を費やしながらビジネスに取り組んでいる。
アイデアのきっかけとなったのは,沼田家で飼われていた「おしんちゃん」というペットの犬だという。約16年間,沼田家族と生活を共にしたペットの死によって,「お墓を作ってあげたい」という希望がビジネスのアイデアへと結びついた。
「わたしたち夫婦は結婚しても何年かは子供ができませんでした。妻が病院へ行って検査を受けたところ,ある病気が見つかり,子供を授かることは無理と宣告を受けました。しかし,その後に妻が教会で責任を受けたとき,按手任命の中で,『あなたがこの責任を一所懸命に果たすときに子供を授かるでしょう』という祝福の言葉が語られました。病院から宣告を受けたばかりでしたので,来世のことを意味するのかもしれないと思っていました。ところが数か月後に,妻は身ごもり,わたしたち夫婦は子供を授かりました。3,600グラムの男の子でした。しかし,この世での試しを経ることなく天に召されてしまいました。」沼田夫妻はそんな悲しみの中で,たまたま出かけた散歩のときに,捨てられていた1匹の犬に出会った。それが,16年もの間,沼田家の一員になった「おしんちゃん」だった。そこにまた祝福が加わった。「子供はあきらめていたのですが,そのあと奇跡的にも二人の娘に恵まれました。」──ほのぼのとした「インターネット上でのペット霊園」のプレゼンテーションには,そんな隠れた背景もあった。
「ペットの場合は,実際にお墓を購入するまでの人はそれほどいません。しかし,愛する家族のように育てた人にとっては,生きていた証としてのお墓が欲しいものです。そして,それがインターネット上で手軽に建てられるとしたらそれなりの利用者がいるであろうと考えました。ペットは犬猫に限りませんので,その対象は相当数に上るからです」
──応募した小さなきっかけを振り返りつつ沼田兄弟は話す。「今回の経験を通して得たことは,結果ではなく,ビジネスでも教会でもチャレンジ精神が必要だということです。考えるだけではなく,考えたことは具体的にして行動に移さなければ何も生まれません。事を起こさなければ何も報いはなかったと思います。」現在,このサービスのためのシステムを構築中の沼田兄弟と娘の香奈美姉妹は,その言葉のとおりチャレンジ精神を遺憾なく発揮している。
このJBPCは,米国のヤマガタ財団が後援となり,入賞者にビジネス起業支援や奨学金を提供している。日本国外でも同大会は開催されており,モンゴルでのカシミヤを中心とした衣料製造をはじめ,太平洋諸島でのエコツーリズムに基づくビジネス等,様々なアイデアで起業を目指す学生を支援してきた。今回の日本の大会では,インターネットを利用したアイデアや,学生以外の参加者によるプレゼンテーションが目立った。今後はさらに,日本ならではの,また,学生自身による斬新な起業アイデアの登場が期待されている。◆