リアホナ2007年2月号信仰の風景 先祖の国とコミュニケーションへの思い

信仰の風景 先祖の国とコミュニケーションへの思い

日系三世のジョン・E・新田兄弟の祖父母は熊本からアメリカへ移住してきた。ほとんどの日系移民がそうであるように,新田兄弟の祖父母もコミュニケーションをとることに苦労しながらも,新天地での生活を切り開くために懸命に生きてきた。当然のことながら,日系三世の新田兄弟の母国語は英語。子供のころから日本語はほとんど話せなかった。しかし,彼の人生の中で「コミュニケーション」をすること,人と人が意志を通じ合わせることは,とても重要なキーワードになっている。

「わたしが生まれたのはカリフォルニア州のロサンゼルスです。ブリガム・ヤング大学(BYU)で学び,伝道へ行き,帰還後はアリゾナへ移り,叔父に当たるジーン・ヤマガタ兄弟の会社で働き始めました。ヤマガタ兄弟はわたしの母の弟になります。わたしの祖父母,つまりヤマガタ兄弟の両親は熊本からオレゴン州へ移住しました。その後,アイダホ州へ移りました。ヤマガタ兄弟には高校時代に親しい友人がいて,その人が教会員でした。そのときに教会に招待されたのがきっかけになり,彼は10代のときに改宗しました。それから姉であるわたしの母も改宗しました。」

叔父のヤマガタ兄弟は奨学金を受けて大学へ進学することになっていたが,教会のビショップの勧めもあり,リックス・カレッジ(現在のBYUアイダホ校)へ進路を変更した。「祖父母は怒っていたようですが,彼はそこで教会員としての様々な原則を学んでいきました。そこで出会った人たちの影響によって,彼は福音を生活に取り入れ,やがて日本へ宣教師として召されることとなりました。」それは家族や新田兄弟の母親へも大きな影響を与えた。「祖父母の家族はアイダホで農業に従事していましたが,とても大変な仕事でした。家族みんなで一生懸命働きましたが,それほど裕福ではありませんでした。祖父母には5人の子供がいました。母は高校を卒業してロサンゼルスへ行きましたが,それには理由がありました。実は祖父母の子供たち5人のうち,3人はろう者でした。原因は分かりませんが,生まれた時から3人とも耳が聞こえませんでした。5人きょうだいのいちばん上と末っ子のヤマガタ兄弟だけがろう者ではありませんでした。耳が聞こえなかった母はロサンゼルスへ行って特別な教育を受ける必要がありました。」

「母はロサンゼルスで父と出会い結婚しました。母は生まれたときから耳が聞こえず,父は子供のときに病気になって耳が聞こえなくなりました。そのため,母の兄弟も全員手話ができますし,わたしを含めて7人の子供たちも全員手話ができます。」新田兄弟は言葉を年上の兄や姉たちから学んで育ったという。兄や姉は近所に住む親戚から学んだ。両親から言葉を学ぶことはなかった。

「祖母が亡くなるときに,彼女はヤマガタ兄弟に,ろう者の二人の姉と一人の兄の面倒を見るようにと言い残しました。彼は今でもその言葉を守って,わたしの母や叔父,その家族を助け,優しく接してくれています。」喜んで人を助けるヤマガタ兄弟のもとで働くようになったのは自然なことだったと新田兄弟は回想する。

「とても親切な人ですから」とヤマガタ兄弟を評する。両親が話せなかったので,手話も含めてコミュニケーションの幅は広がった。そして,さらに人と意志を通じさせる新たな挑戦に直面した。それが日本での伝道だった。「わたしは日本に宣教師として召されましたが,そのときは,(風貌は日本人なのに)ほとんど日本語が話せませんでしたので,会う人たちに『病気ですか?』とよく尋ねられました」と笑う。「しかし,伝道はすばらしい経験でした。わたしの人生の中でかけがえのない経験となりました。」

1981年に東京北伝道部での宣教師生活を終えた新田兄弟は,BYUへ復学した。「BYUで学び,働き,結婚したのは35歳のときでした。伝道を終えて35歳になるまで独身で生活することは,少しばかり寂しく,気持ちのうえではつらい環境にあったと思います。」35歳になるまで永遠の伴侶との出会いがなかったことについて新田兄弟は「意志を伝えコミュニケーションする機会が少なかったから」と話す。その自身の経験が,現在のボランティア活動の大きな動機にもつながっている。

新田兄弟がヤマガタ兄弟と進める活動,それが「L D S Promise」と呼ばれる,インターネット上で独身会員に交流の機会を提供するプロジェクトだ。

「わたしが結婚を考えていたときには,このようなインターネットのサービスがありませんでしたから。わたしは結局,ラスベガスへ引っ越して,独身会員のワードへ出席し,そこで現在の妻と出会いました。初めて集ったときに,聖歌隊の練習に参加し,そこで指揮者をしていた妻と会うことになりました。」

新田兄弟もヤマガタ兄弟も,人との出会いやコミュニケーションについては,多くの思い入れを持っている。しかも,自分たちの遠い故郷でもあり,伝道地でもあった日本には「なにかしら役立ちたい」という気持ちが強く植えつけられているのだと話す。

「わたしの会社の代表者であるジーン・ヤマガタ兄弟は経済的に非常に豊かに祝福されました。ビジネスも順調に進みましたので,彼は日本の教会をなんらかの方法で助けたいといつも願っていました。あるとき,アジア北地域会長会と話をしているときに,日本の独身会員のために何かできないかと感じたそうです。そのときに,インターネットを通じて,日本の独身会員が互いにもっと知り合う機会を提供できたらと考えました。」

そして,そのかすかな思いは2年前から実行に移されている。「アメリカで独身会員を対象にして,非常に成功しているサービスがありました。その会社と話をして,日本語のサイトを作ってもらい,プロジェクトを進めました。それが日本語版の『L D S Promise』です。アメリカでは何千人もの教会員が登録しています。結婚相手を見つける一つの方法として,非常に貢献しています。アメリカでは利用者が会費を支払う有料のサイトなのですが,日本ではヤマガタ財団がすべての費用を支払っています。当初は会費を利用者が払うシステムでしたが,現在は完全に無料です。『LDS Promise』のサイトは日本人会員についてだけ無料になっています。また,このプロジェクトを通じて,わたしたちは金銭を常に負担していますが,金銭的な利益はまったくありません。現在は約500人ぐらいの会員がいます。少しゆっくりなのですが,徐々に成長していると思います。」

アメリカには他にも独身会員に交流する機会を提供するインターネットサイトがあるが,「LDS Promise」のシステムは少し他とは異なると新田兄弟は説明する。「ほとんどのサイトは写真や情報を閲覧して,それを基に興味のある相手を選びます。そして,メールを送って連絡を取り合うことで始まります。しかし,『LDS Promise』では,まず,インターネット上で30分ぐらいのテストを受けることができます。様々な興味や性格についての質問が尋ねられます。その回答に基づいて,いちばん適していると思われる相手をコンピューターが推薦してくれます。」

プロジェクトを進める新田兄弟もシステムを理解するためにこのテストを受けたことがある。「実はわたしと妻も,試しに最近このテストを受けてみました。ちょっと時間はかかりましたが,丁寧に一つ一つの質問に答えていきました。そして,コンピューターが選び出した相手をみて驚きました。面白いことに,最適と思われる相手の情報として,妻の回答結果にはわたしが,わたしの回答結果には妻が推薦されていました。」

新田兄弟は,このサイトへの登録はあくまでも,ふさわしい交際相手を見つけるための一つの方法だと強調する。「今の時代,独身会員が多くのふさわしい人たちと知り合う機会は非常に限られているかもしれません。そのため,このサイトを利用すれば,遠方であっても,ほんとうにふさわしい交際相手を見つけられる可能性があるという点では役立つと思います。しかし,あくまでも,適した相手を見つける一つの方法として活用していただければと思っています。わたしは2005年6月に来日した際に,日本の15か所ほどの地域を回って,教会の指導者や独身会員に説明する機会を作っていただきました。しかし,これは教会がスポンサーになって進めているものではありませんし,教会のプログラムでもありません。世の中でトラブルが発生するのと同じように,インターネットの世界でもトラブルが発生する可能性はあります。わたしがいつも思うことは,どのようなものでも活用方法をよく理解する必要があるということです。例えば,インターネットを通じて遠方のだれかと知り合ったならば,その地域に住んでいる友人や指導者に,その人がどのような人なのか尋ねることもできます。一般的にだれかと出会って交際を始め,その人のバックグラウンドを知ろうとすることと同じです。結婚相手との出会いには様々な方法があります。独身成人のカンファレンス,独身会員のワード,教会の活動,デート等,いろいろな機会があります。このインターネットサイトも,そのような出会いの一つの方法であり,すべてではありません。どんな方法であれ,注意は必要ですし,思慮深くならなければなりません。様々な技術の進歩は神様が与えてくださった祝福だと思いますが,良い使い方を知る必要があります。」

新田兄弟とヤマガタ兄弟は他の方法でも日本の教会員を支援している。「B Y U Hブリガム・ヤング大学ハワイ校の日本ビジネスプラン大賞というプログラムも支援しています。起業を目指す人がビジネスの企画書を提出し,審査の結果,優秀なプランには賞金が出るというコンペティション(企画提案競技)です。その賞金でビジネスを始めるための手伝いもします。受賞者がビジネスを起業するならば,わたしたちはもっと助けたいと思っています。ヤマガタ兄弟は日本では健康補助食品の会社を経営し,アメリカでは不動産,また,小さいですがラスベガスでの航空会社などを経営しています。オフィスはラスベガスとソルトレーク・シティーにあります。これらのビジネスから得た利益を,様々な方法で日本の教会のために還元したいというのがヤマガタ兄弟の希望です。わたしは単にマネージメントしているだけです。」

最近,「LDS Promise」を通じて一組の日本人カップルが神殿結婚をしたという話は新田兄弟に大きな喜びをもたらした。「たった一組ではありますが,わたしたちはすごく幸せな気持ちを感じています。日本の独身会員の皆さんが神殿結婚する機会を提供すること。それがわたしたちの目標です。アメリカではたくさんの独身会員がこのサイトを通じて出会い,結婚しています。日本ではまだまだ始まったばかりと言えます。」

インターネットの技術やサービスは日々急速に変化を遂げている。多くの人がその恩恵を受けているが,新田兄弟自身も恩恵を受けているまさにその一人なのだと語る。「わたしの両親はろう者なので,電話で話すこともできませんでした。遠方からは,いつも特別な電話機を使って,それで互いの気持ちを伝えていました。とても大掛かりな機械です。しかし,今はインターネットを利用することでもっと便利な時代になっています。」

ろう者の両親とのコミュニケーション,日本語の習得に苦労した伝道経験,思うように婚期を迎えられなかった独身生活。そして,日系人としての日本への思い。それらのすべてが,「L D S Promise」への新田兄弟の新しい試みを支える原動力になっている。◆