リアホナ 2006年6月号 ブリガム・ヤング大学学部長,日本のビジネスマンに企業倫理を説く

News Box ブリガム・ヤング大学学部長,日本のビジネスマンに企業倫理を説く

──BYUマリオット・スクール・オブ・マネージメントの学部長と副学部長が来日

ブリガム・ヤング大学(BYU)のマリオット・スクール・オブ・マネージメントは,MBA(経営学修士号)などの学位が得られる大学院であり,企業倫理を強調する教育機関としては全米2位の評価を受けている(『ウォールストリートジャーナル』,2003年9月17日号)。その学部長であるネッド・C・ヒル教授と,副学部長のW・スティーブ・アルブレヒト教授がこの5月に来日し,東京・大阪のビジネスマンに対し,「ビジネスにおける倫理観の重要性」について講演を行った。

ヒル教授とアルブレヒト教授は5月11日に,東京の経済同友会に招かれて講演を行い,翌12日には大阪の関西生産性本部において講演と懇親の機会を得た。13日には慶応大学の小林節教授(憲法学)のゼミを訪れ,法学部の学部生と院生ら26人にビジネス倫理を説く。14日の安息日には東京ステークセンター(中野)にてファイヤサイドを開き,「倫理と家族」のテーマで話した。15日には東京の日本経済団体連合会にて,220人のビジネスリーダーを前に講演した。また17日にヒル教授は,財務大臣の谷垣禎一衆議院議員と会談し,ビジネス倫理について話し合った。

「黄金律」を基盤としたビジネス倫理

昨今の日本においても,粉飾決算やデータの偽造といったビジネスに関する不祥事がたびたびマスコミを賑わせている。それは世界的な現象であり,同教授らは「不正の大嵐」が吹き荒れていると表現する。この時宜に適ったテーマでの講演に対し,今回,総計で500人以上の経済人が耳を傾けた。

講演では,まずアルブレヒト教授が,日本を含む世界各国で起こった最近の事例からどのようなタイプの不正が行われているかを整理分類し,巨額の負債を抱えて倒産した企業の例を分析する。小さなきっかけで始まった不正が膨れ上がり,最終的に企業へ致命傷を与えた経緯を明らかにし,また社会や家庭で倫理的に振る舞う紳士が,どのような条件下で不正に手を染めるのかというモデル「不正の三角形」を示した。

続くヒル教授は,まず,仏教,ヒンズー教からイスラム教,ギリシャ哲学に至るまで世界の様々な文化圏において倫理の根拠となるものは「黄金律」,すなわち「何事でも人々からしてほしいと望むことは,人々にもそのとおりにせよ」(マタイによる福音書第7章12節)であり,それがビジネスの世界でも普遍的な倫理の根幹をなす,と説く。そして,互いに倫理的でない者同士の商取引がいかに“高くつく”かを訴えた。国家的なレベルにおいても,不正や汚職などの横行する非倫理的な国家では,セキュリティ対策や法的な防禦などが不可欠となり高いコストが発生するため,経済効率が悪く,またそのリスクゆえに海外からの投資を呼び込みにくく,経済発展が望めない。それに対し,共通の倫理基盤と信頼に基づく環境では,商取引にかかるコストははるかに安上がりとなり,互いに高い利益を生むことができるというのである。

またヒル教授は,教育者としての観点から高い倫理観を持った学生を育てることにも言及した。成熟した倫理観を持つビジネスマンが,周囲の圧力に屈さず,倫理に対する勇気をもってリーダーシップを発揮し,企業全体に倫理的な社風を作り上げることが成功の鍵であると説き,「倫理的なビジネスこそが良いビジネスなのです」と締めくくった。ファイヤサイドにて東京ステークセンターでのファイヤサイドでは,アルブレヒト教授は教会員に向け「成功するための4つの方法」を話した。1つは「準備(Prepalation)」である。できるだけ高い教育を受けること。また教育だけでなく,職場などの与えられた場で一所懸命に努力することがこれに当たる。「準備の努力に王道(近道)はありません。備えていれば恐れることはないのです。」

2つは「義しさ(Righteousness)」。常に義にかなっており,罪悪感を持っていないこと。罪悪感を持っている人は生産性が低い,と話す。「妥協せず,完全に高潔であることが大切です。ほんの小さな妥協から大きな問題に発展するのです。」

3つは「卓越していること(Excellence)」。「仕事において常に求められる以上のことを行うことです。人からの賞賛を求めないように。また,可能なかぎりどこでも人のために奉仕することです。」

そして4つ目は「情熱(Passion)」である。モーセ書第1章で,主は「わたしの子モーセよ」と呼びかけ,サタンは「人の子モーセよ」と呼びかけたことを引用し,「もしわたしたちが自分を神の子であると理解すれば何でもできます。」──教会,仕事,家庭,地域社会で,自分の適性や才能を情熱をもって開花させ,それにより人に貢献するのが大切,と結んだ。

同ファイヤサイドでヒル教授は,「どのようにすれば人は正直さを身につけられるのでしょうか?」と呼びかけ,それにはモデリング(模範を通して学ぶ)とラベリング(信頼できる親や教師が善悪の判断を教える)を併用することが有効であると語った。

また,これまでユタ州で展開していたある大型店舗がアイダホ州に新規出店した際のエピソードを紹介した。新規参入責任者のチャイルド兄弟は日曜日には店を開けないと決めた。会社のオーナーは,ユタならともかく,アイダホでは(日曜に開けないと)商売にならない」と言う。チャイルド兄弟は,新店舗のための土地・建物・最初の商品仕入にかかる費用一切を自費でまかなうと申し出た。そして,「損失が出たら自分で責任を負います。利益が出たら会社にそっくりそのまま売り戻します」と言って日曜を閉店とした。その結果,売り上げは順調に伸び,事業は成功したという。「多くの人は倫理について頭でも心でも分かっています。しかし,不正や自分の標準に反することを求められたときNoと言う勇気がありますか?」

ヒル教授は,子供たちに倫理を教えるための方法として以下の3つを提案した。第1に,高潔さについて家庭内で話をすること,新聞記事やニュースなどから何でも話題にして,何が善くて何が悪いかを言葉で示すこと。第2に模範によって教えること。第3に,高潔な話を子供と読むこと。「聖典には高潔な人物の話がたくさん出てきます。イエス・キリストの生涯は高潔なものでした。また,聖典だけでなく,高潔な人物についての話を一緒に読むこともできます。」◆